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2025年05月08日
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We must find out whether it is true or not. ②

2006年08月13日
「おはよう…」
 もそもそとハウルがベッドから這い出てきた時は、ソフィーが朝食を作っていて、
にこりと笑っておはよう、と返してきた。
 ハウルはなんとも信じられない気分だった。

 自分には妻が居て、朝ごはんを自分の為に作ってくれていて、(マイケルのことはハウルの頭に無い)自分が外から帰ってくればいつの間にか自分が散らかした場所を綺麗に掃除をしてくれていて(でもあんまりして欲しくはない…というのは隠しておく。揉め事はたくさんだ。)自分の話を自分と向き合って聞いてくれるのだ。
(女の子の話になると苦笑いになって、ハウルに少し冷たくなるが)
 一番信じられないのが、自分の気持ちだった。
 僕の虜になった子はすぐ興味がなくなるこの僕が!
 このソフィーという女の子(話を聞けば18歳だという。まぁ9歳差なんて気にならないが)の事は、興味があるのだ。今日は何をやっていたのかとか…マイケルと何をこそこそ話しているのかだとか…
 虜になったどころか妻なんて面倒くさい存在(もの)なのにだ!

 ハウルは昨日と違い、席におとなしく着いて、朝食を食べた。
 この僕の奥さんとやらは、料理が上手い。
「ハウル、気分が悪いならもう一度ねたらどう?」
 へ?
「どうして?」
 僕が聞くと奥さんは、ハウルがそんな恰好で下におりて来るのはめったに無い事だからよ。といった。
 下をみればパジャマのまま。
「ぁあ!ごめんよ!レディの前で失礼した!」
 僕としたことが!朝食の香りに誘われてついそのまま出てきてしまったんだ!
「いいわよ別に。そんなパジャマくらい。いつも…」
 といった所で彼女は口をつぐんだ。
 そしてしどろもどろに今言いかけていたことを誤魔化そうと必死になっていた。
「いつも…?いつも僕は何を…?」
 そういうと、彼女は決まって、
「なによ!ハウルがいつも仕掛けてたくせに!」
 と顔を真っ赤にして言うのだ。
「…何なんだろう。」
 と、こんなしぐさも、怒った顔も可愛いと思い、そして気になるのだ。

すきってなんだろう。

 どうしてこんな気持ちになるんだろう。
 カルシファーが持っていた僕の心臓がいつの間にか、戻っていて僕の調子を狂わせるのだ。
 どくんどくんと打つそれは、心地よく、また重い。

 そんな風に僕は数日を過ごした。
 前の女の子はすっかり僕を見る目が違ってしまったので、(もちろんあのとろけそうな目だ!)
違う女の子に声をかけて、そしてこれがまた厄介で、ヤキモキしていた。
 そう何度もデートを重ね、連日僕は城に戻る事もままならなかった。






「ただいま」
「おかえりなさい」
 ソフィーとドアの前ですれ違った。

おこって…いる?

「ソフィー!どうしたんだい?」
思わず腕を掴んでしまった。しかも強く。ソフィーがいたっ、と小さく呻いた。
「私たち離婚しましょう。その方がいいわ。」
なにかぞくんと心臓が落ちたような感覚にとらわれた。
「いやだ!ソフィーいかないで!」
どうしてだろう。
どうして自分はこんなにもこの子を引き止めるのだろう。
「…私のこと…忘れたんでしょう?」
「…そりゃ思い出せないけど…」
ソフィー。ここの掃除婦で…僕の妻だと言う人。
「だから私がいなくなればハウル――貴方にとっていつも通りの生活にもどる。」
「イヤだ」
いつも?いつもってなんだよ。
ソフィーが苛々を募らせてハウルの腕を振りほどいた。
「どうしてよ!」
「どうしてって…!」
ぼくにだってわからない!そう怒鳴った。
ソフィーの顔は歪み、目には涙がたまっている。
「どうしてそんなこというの?!」

「だって…僕はソフィーが…」
 頬は赤く、目から次々と涙があふれている彼女をみて、ハウルは目の前がぐらぐらとゆれているのを感じた。世界が真っ暗になりそうだった。


「だって…僕はソフィーが好きなんだ…すきなんだよ…」
「?! ハウ…ル!」






ぱちん







「魔法が解けたよ」

カルシファーの声が部屋の中で響いた。
  まほう?

「あれ?僕は…?」
ソフィーが愕然とした顔でハウルの顔を見上げていた。
どうやら涙は驚きと一緒に出てなくなってしまったようだった。
「…?ソフィー?」
「…!」

ソフィーはあごをガクガクと震わせていた。どうやら頭は真っ白なようだ。
魔法だったの…?!
ソフィーはハウルの表情を見た。
ソフィーに対する目が違った。いつもの…あの…
「ハウル…」
「ッあ――――――――!!!!」

「僕、今ソフィーに『ソフィーの事がすき』っていったかい?!」
ハウルは凄い剣幕でソフィーの肩に掴みかかった。
「…ぇ…ええ…」

「っし!」
「ちょ、ちょっとまって…;あの…話が見えないのだけれど…」
ソフィーは混乱していた。ハウルが元にもどって必要のなくなったカバンをちらりと見てハウルに向き直った。

「こいつは賭けをしたんだよ。」
「賭け…ですって…?!」
ソフィーは何となくそんな事をする相手は一人しか居ないと思った。
「王子とね??!!」
「あたり~♪僕が本当に君の事を好きかどうか疑われてね!
僕は記憶がなくなっても君の事を好きだと思うよといったらあいつ『じゃあ魔法でソフィーを忘れるようにして証明してみせろ』っていうもんだからさ!」
「はぁア?!」
「本当にすきだって事が証明されたから解けたんだ!」

ハウルはうきうきと嬉しそうにソフィーを腕の中に抱きしめ、記憶のなくなっていた間の分を埋めようとしているようだった。
「~~~~~ッ!」
ソフィーはゆっくりとハウルの身体を押し、顔が見えるところまで離した。
そして。


「っいったぁあ!」
「そのくらい罰を受けてあたりまえだわ!」
持っていたカバンでハウルの後頭部を殴った。

「呆れた!」
ハウルはなみだ目でソフィーを見た。

仁王立ちでしゃがみ込んでいるハウルを見下ろしている。
そこにはハウルが一番大好きな、ソフィーの笑顔があった。
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We must find out whether it is true or not. ①

2006年08月13日
「君はだれ?」
 時は夕時。
 ソフィーはカルシファーの火の上に鍋を置き、
ことことと野菜をやわらかくなるまで煮込んでいた。
 野菜の甘いにおいが、ふんわりと鼻をくすぐる。
 いつもの夕食前の風景。
 いつもの皆。

 だ れ

 誰かお客がいるわけでもなく、マイケル、カルシファーとソフィー。
 ドアの前にはハウル。
「ハウル?冗談言ってないで早く席に座って頂戴。」
 ソフィーはマイケルのお椀を手に取りきらきらしたスープを注ぐ。
 マイケルは、それを喜んで受け取りスプーンを進んで引き出しから出した。
「ひゃ?!ちょ、ちょっとハウル??!」
 マイケルが振り向くと、ハウルがソフィーに近づき手の甲にふんわりとキスをして
にっこりと微笑んだ。
「かわいらしいお嬢さん、僕を待っていてくれていたのかい?」
 きもちわるい…きもちわるすぎる。
 いつもソフィーが皆でご飯を食べるのは当たり前の事だし、それをハウルも知っていて
いつも早々に大体は帰ってくる。
 にっこり笑いながらハウルはソフィーの手を放し、(エメラルドの瞳はソフィーを見たまま)マイケルに耳打ちをした。

「この子は誰?」

「…はッ?!」
 ガシャンッ
 大きな音を出してマイケルは皿を取り落としてしまった。
「な…なんですか?また新しい冗談ですか?」
 はは…と乾いた笑いを漏らし、背後のソフィーの冷たい視線を流そうと
マイケルは必死にその冗談をハウルにやめさせようとした。
「だから誰?あ…!また僕誰かを虜にしていつのまにかフってた?」
「だから…あのハウルさん…」
 マイケルはおろおろとソフィーの顔色をうかがい、
「ちょっと!」
 仁王立ちでスプーンをにぎって凄い形相でこちらをみている。
 ソフィーのその表情を見てマイケルは心臓が早くなるのを感じた。
「…なんだい?」
「夕食が冷めてしまうわ!食べるの?食べないの?!」
 ハウルは少し考えてからしぶしぶ食卓に座った。
 マイケルは重い沈黙に耐えられないようでハウルさん呪文の課題がどうとか、
ソフィーさんこのスープすごくおいしいですとか一生懸命話していたが部屋の気まずさに
結局は黙ってしまった。
 もくもくと食事が続き、その沈黙をやぶったのはソフィーだった。
「…で?今度はなんの冗談なの?」
 にっこりと笑い、ソフィーは問いかけた。
「今度って…以前に君にあったかな?覚えが無いのだけれど。」
「まぁ!」
「ハウルさん…」
 ソフィーはまだこのばかばかしい冗談を続けるのかと怒り、
マイケルはあきれた。
「僕はお風呂に入ってくるよ。カルシファーお湯を送って」
 ハウルはがたんと席を立ち、2階にあがっていってしまった。
「…ハウルさぁん…」
 マイケルは泣きそうな声をだした。








「まだいたの?」
 その言葉はソフィーのなかで、何かをぷつんと切った。
「あのねぇえ?ハウエル・ジェンキンス!」
 ハウルは本名を口にされ、目を見開いた。
「私は貴方の妻で貴方は私の夫でしょ?!いい加減してよ!」
「僕が…?君の…?」
 そうよ、とソフィーは目でハウルに訴えた。
「何を言ってるんだい、可愛い子ちゃん!僕はまだ27歳でまだまだ遊びたい年頃だよ?」
 結婚なんてまだ先さ!
 ソフィーを笑い飛ばし、あっはっはと笑った。
 ソフィーはそのハウルの顔をみて、『まさか』が確信に変わった。
「…ほんとう…に?」
 一人演説をしていたハウルは傍らの可愛い灰色の子鼠ちゃんの声がうわずっていたのを聞いた。
 声が…震えていた。
 気のせいか目も潤んでいないか?
「…ほんとうに…きおくがない…の?」
「記憶が無いも何も…ぼくは…」
 ぱたっ
「ハウル…ほんとに私のことわすれちゃったの?」
「こ、子鼠ちゃん…?」
 ハウルはソフィーのうつむいた顔を覗こうと顔を近づけた。
 髪の毛で表情は見えないが、どうやら泣いているらしい。
「ソフィーよ!私の名前はソフィー!」
 耳元で怒鳴られ、耳鳴りがした。
「そ、ソフィー?」
「そうよ…そして貴方の奥さんで…貴方を一番に愛していて…」
 …ドクン…
 ハウルは胸が急に震えたのを聞いた。
 頭をがつんと殴られたような衝撃が身体の真ん中から。
 ぁあもし自分が記憶をなくしたというのが本当ならば、きっと自分はこの人のことが好きだったんだ。
 だってこんなにも心が呼びかけているじゃないか!
「ごめんよ。泣き止んでおくれソフィー」
 僕、困ってしまうよ。
 ソフィーは名前を呼ばれて顔をあげた。
「可愛い顔が台無しだ…」
 ソフィーの涙をハウルの優しい指がはらう。
 ハウルの指が触れたところからソフィーは熱を帯びてゆくのを感じた。
「可愛くなんて無いわ!」
 ぁあ!いつもこうなるんだ!長女なんて!
 ハウルは私のことをしらない…知らないんだわ…
「…っうく」
 このもどかしさ、切なさを分けてやれたらとソフィーはハウルをキッと睨み付けた。
 鼻の先にはハウルの顔があった。
 にっこりと笑い、やんわりとその長い指がソフィーの首筋を伝い、おでこを合わせた。
「ソフィー熱いよ」
 泣いたからかな?
 ソフィーは決してこの熱が泣いたせいではないことは分かっていた。
「あなたのせいよ!」
 ソフィーは憤慨してみせた。
 ぉお!こわい!
 そして二人は唇を重ねた。
 どちらかしたなんてわからない。
 ハウルにとっては初めての。
 ソフィーにとっては朝方ぶりのキスだった。


 記憶がなくても、貴方が好きだと心は覚えていたよ。


 いとしい顔を見つめ、もう一度、もう一度とその気持ちをお互い相手にぶつけた。
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