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2025年05月08日
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We must find out whether it is true or not. ①

2006年08月13日
「君はだれ?」
 時は夕時。
 ソフィーはカルシファーの火の上に鍋を置き、
ことことと野菜をやわらかくなるまで煮込んでいた。
 野菜の甘いにおいが、ふんわりと鼻をくすぐる。
 いつもの夕食前の風景。
 いつもの皆。

 だ れ

 誰かお客がいるわけでもなく、マイケル、カルシファーとソフィー。
 ドアの前にはハウル。
「ハウル?冗談言ってないで早く席に座って頂戴。」
 ソフィーはマイケルのお椀を手に取りきらきらしたスープを注ぐ。
 マイケルは、それを喜んで受け取りスプーンを進んで引き出しから出した。
「ひゃ?!ちょ、ちょっとハウル??!」
 マイケルが振り向くと、ハウルがソフィーに近づき手の甲にふんわりとキスをして
にっこりと微笑んだ。
「かわいらしいお嬢さん、僕を待っていてくれていたのかい?」
 きもちわるい…きもちわるすぎる。
 いつもソフィーが皆でご飯を食べるのは当たり前の事だし、それをハウルも知っていて
いつも早々に大体は帰ってくる。
 にっこり笑いながらハウルはソフィーの手を放し、(エメラルドの瞳はソフィーを見たまま)マイケルに耳打ちをした。

「この子は誰?」

「…はッ?!」
 ガシャンッ
 大きな音を出してマイケルは皿を取り落としてしまった。
「な…なんですか?また新しい冗談ですか?」
 はは…と乾いた笑いを漏らし、背後のソフィーの冷たい視線を流そうと
マイケルは必死にその冗談をハウルにやめさせようとした。
「だから誰?あ…!また僕誰かを虜にしていつのまにかフってた?」
「だから…あのハウルさん…」
 マイケルはおろおろとソフィーの顔色をうかがい、
「ちょっと!」
 仁王立ちでスプーンをにぎって凄い形相でこちらをみている。
 ソフィーのその表情を見てマイケルは心臓が早くなるのを感じた。
「…なんだい?」
「夕食が冷めてしまうわ!食べるの?食べないの?!」
 ハウルは少し考えてからしぶしぶ食卓に座った。
 マイケルは重い沈黙に耐えられないようでハウルさん呪文の課題がどうとか、
ソフィーさんこのスープすごくおいしいですとか一生懸命話していたが部屋の気まずさに
結局は黙ってしまった。
 もくもくと食事が続き、その沈黙をやぶったのはソフィーだった。
「…で?今度はなんの冗談なの?」
 にっこりと笑い、ソフィーは問いかけた。
「今度って…以前に君にあったかな?覚えが無いのだけれど。」
「まぁ!」
「ハウルさん…」
 ソフィーはまだこのばかばかしい冗談を続けるのかと怒り、
マイケルはあきれた。
「僕はお風呂に入ってくるよ。カルシファーお湯を送って」
 ハウルはがたんと席を立ち、2階にあがっていってしまった。
「…ハウルさぁん…」
 マイケルは泣きそうな声をだした。








「まだいたの?」
 その言葉はソフィーのなかで、何かをぷつんと切った。
「あのねぇえ?ハウエル・ジェンキンス!」
 ハウルは本名を口にされ、目を見開いた。
「私は貴方の妻で貴方は私の夫でしょ?!いい加減してよ!」
「僕が…?君の…?」
 そうよ、とソフィーは目でハウルに訴えた。
「何を言ってるんだい、可愛い子ちゃん!僕はまだ27歳でまだまだ遊びたい年頃だよ?」
 結婚なんてまだ先さ!
 ソフィーを笑い飛ばし、あっはっはと笑った。
 ソフィーはそのハウルの顔をみて、『まさか』が確信に変わった。
「…ほんとう…に?」
 一人演説をしていたハウルは傍らの可愛い灰色の子鼠ちゃんの声がうわずっていたのを聞いた。
 声が…震えていた。
 気のせいか目も潤んでいないか?
「…ほんとうに…きおくがない…の?」
「記憶が無いも何も…ぼくは…」
 ぱたっ
「ハウル…ほんとに私のことわすれちゃったの?」
「こ、子鼠ちゃん…?」
 ハウルはソフィーのうつむいた顔を覗こうと顔を近づけた。
 髪の毛で表情は見えないが、どうやら泣いているらしい。
「ソフィーよ!私の名前はソフィー!」
 耳元で怒鳴られ、耳鳴りがした。
「そ、ソフィー?」
「そうよ…そして貴方の奥さんで…貴方を一番に愛していて…」
 …ドクン…
 ハウルは胸が急に震えたのを聞いた。
 頭をがつんと殴られたような衝撃が身体の真ん中から。
 ぁあもし自分が記憶をなくしたというのが本当ならば、きっと自分はこの人のことが好きだったんだ。
 だってこんなにも心が呼びかけているじゃないか!
「ごめんよ。泣き止んでおくれソフィー」
 僕、困ってしまうよ。
 ソフィーは名前を呼ばれて顔をあげた。
「可愛い顔が台無しだ…」
 ソフィーの涙をハウルの優しい指がはらう。
 ハウルの指が触れたところからソフィーは熱を帯びてゆくのを感じた。
「可愛くなんて無いわ!」
 ぁあ!いつもこうなるんだ!長女なんて!
 ハウルは私のことをしらない…知らないんだわ…
「…っうく」
 このもどかしさ、切なさを分けてやれたらとソフィーはハウルをキッと睨み付けた。
 鼻の先にはハウルの顔があった。
 にっこりと笑い、やんわりとその長い指がソフィーの首筋を伝い、おでこを合わせた。
「ソフィー熱いよ」
 泣いたからかな?
 ソフィーは決してこの熱が泣いたせいではないことは分かっていた。
「あなたのせいよ!」
 ソフィーは憤慨してみせた。
 ぉお!こわい!
 そして二人は唇を重ねた。
 どちらかしたなんてわからない。
 ハウルにとっては初めての。
 ソフィーにとっては朝方ぶりのキスだった。


 記憶がなくても、貴方が好きだと心は覚えていたよ。


 いとしい顔を見つめ、もう一度、もう一度とその気持ちをお互い相手にぶつけた。
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