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性別不明体育教師
土方は体育にあまり燃えるほうじゃない。
むしろ気だるい授業の一つである。
右隣に立つ豪気な男は今日も頑張るぞ!と息巻いている。
そして、左隣の栗色の少年は別のことで熱を燃やしている。
(今土方死ねとか言わなかったか?お前が死ね)
はぁ、とため息をつくと土方は体育教師に目を向けた。
ひげ面の顔に厚化粧を派手なカツラをかぶっている大男。
鬼の体育教師西郷。
化け物である。
土方は正直、この体育教師が好きではない。
「おらぁあ!気合入れろやァ!!」
「こわぃいいい!この人恐いんですけどォ!」
この軟弱な声の持ち主は我等が担任の坂田銀八。
なぜ、体育の授業に国語担当のこの教師がいるのかはわからない。
しかし、このクラスメイト達はそういう細かい所に気を向けないクラスだ。
(一部気を使いすぎて保健室に行ったり、退学届けとかをだす奴もいるが)
今の現状を取り囲んで素直に眺めている。
(むしろ面白がっているといった方が正しいか)
「土方、なんで銀ちゃんいるカ?」
「俺に聞くな」
神楽が土方の前に立ち、銀八と西郷に指をさした。
「ちょ、まじで?なんで?俺あんたのガキと遊んだだけじゃん!世話してやったんじゃん!」
「嘘つくんじゃねぇ!お前てる彦へんなホテル街連れてかれたとか言ってたぞ!」
「うるせぇな世話してやったんだからおネェさん釣る道具くらいなってくれたっていいじゃん!ほんとありがたかったよ!いろんなおネェさんがかわいい~あなたいくつ?って俺?俺25過ぎちゃったよ~もうっあなたじゃなくってこの小さなぼうやよぉ!ああそっかぁあははははって…」
「てめぇえええええ!んな都合いい事あるわけあるかァ!っていうか、それほんとか?今度やろうじゃなくってまじブッコロス!」
どうやら、銀八が西郷の息子を変な所に連れて行ったことが原因らしい。
(ていうか、銀八もそういうところ行くんだなぁ…)
土方はぼぉっとその成り行きを見守っていた。
(多分通りがかっただけとかそんなんだろうけど…)
(いや、まさか子供を餌にして女達を呼び寄せるなんてことしてないし、女達はそんな簡単じゃないだろう…)
(だけど)
(だけど)
「土方さん?どうしたんですかぃ?」
「……え?」
考えにふけっていて周りが見えていなかった。
ふと目の前を見ると、馬乗りで西郷が銀八に殴りかかる所だった。
「あ。」
彼氏から紹介される彼氏。
俺はいつも、お登勢の説教や、坂本のおりょう先生話などを避けるために屋上に逃げ込んでいた。
屋上は授業中にたばこにうるさい生徒たちもいないし、(ぺろぺろきゃんでぃ食ってるっていってんのに)何より風が気持ちよかった。
心地よい風にあたっていると、頭がすっきりしてくるので好きだ。
ある日、屋上の鍵をかけ忘れたのを思い出した。
どうせ一服しようと思っていたのだ。
ちょうどいいとばかりに、屋上の扉をだるい体であけた。
ふと、目の前を見やると黒髪の男子生徒が入り込んでいた。
やべぇなぁばばあに怒られると頭をぼりぼりかいた。
ぼぉっとする頭で生徒を見る。
土方だ。
それに気づいたのはいいが、どう声をかけようか。
フェンスごしにはるか下にあるグラウンドの土を見つめている。
高い所すきなのかしら?
「何、君も自殺願望者?」
ぽかんと俺をみる土方がそこにはいた。
ああ、やっちゃったかな?
「来たかったから…」
だから鍵が開いていたから入ってきてしまったと。
素直で美人で…本当にカワイイなぁと思った。女の子だったらなぁ。
そんなに好きなのだろうか。怒られるのか覚悟しているだろう土方はフェンスからてこでも動かなさそうだ。
俺は屋上と書かれたキーホルダー付の2本の鍵をポケットから取り出し、片方をかちりと外して、土方に差し出した。
「じゃあ時々くれば?ここが先生に見つからない場所だからって、授業をサボるのに使わないんだったらあげる」
そのまま土方は鍵をみつめていた。
「無くすなよ。スペアそれしかないから」
そういってタバコをつけた。
土方は週に何度か屋上へ行っていた。
俺は帰る前に屋上に毎日のように足を運んだ。
土方が来ている時は、帰るのを促して帰った。
別に土方だって鍵をもっているのだからそんなことをする必要は無かったが、俺の足はいつも屋上へ向かっていた。
「せんせいー!土方君がいません!」
ある日午後の授業へいくと女顔の生徒、土方の幼馴染沖田くんが教えてくれた。
そう沖田くんがいうと隣の神楽の顔がゆがんだ。
神楽は俺に懐いている。と思う。神楽は去年からの俺の生徒だ。
去年はクラスにあまりいなかったのに今年はよく教室にいるようになった。
しかし、めずらしい。他人がいないというので顔を不安でゆがませるようになるだなんて。
「銀ちゃん土方授業でないのおかしいネ!」
「そうなの?どうでもいいけど、『先生』でしょ。せ・ん・せ・い。」
神楽の台詞にすぐさま訂正を入れる。
「銀ちゃん!」
「直す気ないよね。いいけどね。先生めげないけどね」
「探してきて!!」
神楽に廊下に押し出されて、扉をしめられてしまった。
土方がいる場所なんてお前らの方がわかるんじゃないのか。
ぼりぼりと頭をかいた。
言ったって行けと命令されるだけだ。
授業をやるより、土方を探す方が楽だ。
俺は廊下を歩き始めた。
ふらふらと廊下を徘徊した。
タバコをつけて、吸う。煙が肺に入ってくる感覚がした。
ああ、もうこっちの方が面倒くさいかも。
大体、律儀に土方なんて探しに行かずに、屋上とかでタバコふかしてるほうが俺らしいし…
今日なんてすごい いい天気だし、ばかばかしいし…
その考えに至って、少し考えた。
あいつも、もしかしたらいるのかな
屋上のドアノブをかちりとまわすと、あきらかに開いている。
きぃと静かに開けて中をのぞいた。
ああ、まっくろなやつがいる。
「土方」
土方はがばりと起き上がって驚いた顔で俺を見た。
「先生、放課後とか休み時間ならいいよって約束であげたんだけど。」
本当はサボることなんてどうでもいいのだが、一応先生でしょ。俺って。
タバコを床に落として、足でつぶした。
土方が言い訳を言ったりしてたけど、そんなのどうでもよくて早く教室に戻って欲しかった。
面倒くさい。
しゃがんで、土方と顔が近くなった。
ああ、ほんと綺麗な顔だな。
じっと見ていると、土方と視線が剥がせない。
土方が俺を見ていた。
なぜかそれだけで嬉しくなって、興奮している自分に気づいた。
「そんな見つめられると照れるんですけど?」
そう言って、土方ははっとしてうつむいた。
そんな仕草も表情もかわいいなぁと思う。
それから、土方は立ち上がって、フェンスに向かい俺にいきなりこういった。
「せんせい、俺ここから飛び降りて着地します」
頭ががつんと殴られた気がした。
平静を装ったが、それが余計に彼を煽ったようだった。
土方はフェンスを超え、何も頼りが無い場所へと降り立った。
俺は焦った。飛び降りるってどういうことか分かっているのかと。
いなくなる。
この子が俺の前から。
そう思ったら、真顔で土方にやめろと言っていた。
どんな表情か自分では分からないが、土方の顔が驚いていたので多分すごい顔だったんだと思う。
急に俺の目の前から、土方が消えたのが見えた。
フェンスをよじ登って、下を見ると土方はいなかった。
目の前が真っ暗になって、足が崩れた。
土方…!
少し角度を変えて見ると、少し床が出来ているところに土方は落ちていた。
怒鳴って土方を呼びつけ、そして抱きしめた。
華奢な体を自分の腕の中におさめると、やっと落ち着いた。
土方はずっとごめんなさい、と繰り返していた。
俺はその日腰が抜けたのだが、そのせいで土方に情けないと言われた。
笑いが半分と、恥ずかしいと思いが半分だった。
その日から土方は俺を避けた。
屋上にも来なくなったし、授業中俺をみることもなくなった。
土方が人と話すとき、相手をきちんとみているということはちゃんと知っていた。
あれから俺は土方ばかりみていたのだから。だから、おかしい。
土方に明らかに避けられている間、俺はイライラしていてみっともないくらいだ。
自分でも分かっているのだが、どうしても止まらなかった。
タバコと、チョコの量だって増えていたし、坂本に肌が良くないなんて言われたりしていた。
そんな時だ。
図書室に向かう土方を見つけたのは。
一番奥の席に座って何かを読んでいる。
俺は土方の前の席に座って驚かせてやろうと、座ると土方は本に夢中だった。
だから俺は何だか放置されたようで、イラついていじめてしまった。
そうしたら、土方はその漆黒の瞳からぱた、と真珠のような涙を流した。
死ぬかと思った。
土方があんないじわるで泣いてしまうなんて。
確かに泣かせてみたいだとか、俺がこの子の気持ちを支配できたらどんなにいいだろうって。
そう思ったけれど。
そのまま走り去る土方を俺は屋上まで追いかけて、抱きしめた。
俺が土方のこといじわるしちゃったこと謝ったら、土方は俺が怒ってたから会うのが怖いって。
それって土方。
それって俺に嫌われたくないって、そういう事だろう?
愛しくて、抱きしめる力を強めてしばらくその至福の時を楽しんだ。
それから土方は俺を避けようとはしなかったが、今度は何かを言いたそうな顔をよくするようになった。
俺はそれを促そうとはしなかった。
土方は大抵そういう時は、自分の中で整理がついていない場合が多い。
その場合、土方はきちんとそれらが整理し終わってから俺に言ってくる。
だから待っていたのだが、一向にいいに来ないので丁度土方が近藤のノートを持ってきたとき屋上に呼び出した。
仕事の切りの良い所で屋上へ向かった。
屋上では待っていた土方が眠っていて、とても理性を保つのが辛かった。
起こすとぼ~っとこちらを見ていて、かわいいと思った。
欲しい。
この子が。
そうして、俺が言いたいことがあるのではないか?と促すと、土方は「自分はもう自殺なんてしないから同情なんていらない」とか「気を使うな」と言い出した。
同情なんていらないから愛情をくれ、と言われているようだった。
土方にはきっとそんなつもりはなかったのだろうが、俺はくらりとめまいを覚えた。
無防備に差し出される小指に呪いでもかけるように俺は指切りをした。
土方は知らないだろうが、これは遊女が、この人と決めた男性に「一生あなたを愛し続けます」という意味で指を切ったりしたことのことで、指きりの時に歌う歌は、
「私は指を切ってまであなたへの愛を誓ったのよ
だから、裏切ったりしたら一万回殴って、針も千本飲ましてやる
だから私を裏切ったりしないで 必ず私を外の世界に連れて行ってね」
という、遊女の歌なのだ。
本当はそんな軽々しく小指なんて差し出すものじゃない。
約束はとても、とても重たいものなのだよ。
なぁ、土方。
これは愛の証だと言うと、土方はぽかんとした顔で俺をみた。
さぁ、土方。覚悟しとけよ。
俺はお前を外の世界に連れてゆくよ。
裏切ったりなんてしない。
むしろするかもしれないのは お前。
他の男と関係をもつ、罪作りな遊女。
金魂設定
無題
俺はいつも、お登勢の説教や、坂本のおりょう先生話などを避けるために屋上に逃げ込んでいた。
屋上は授業中にたばこにうるさい生徒たちもいないし、(ぺろぺろきゃんでぃ食ってるっていってんのに)何より風が気持ちよかった。
心地よい風にあたっていると、頭がすっきりしてくるので好きだ。
ある日、屋上の鍵をかけ忘れたのを思い出した。
どうせ一服しようと思っていたのだ。
ちょうどいいとばかりに、屋上の扉をだるい体であけた。
ふと、目の前を見やると黒髪の男子生徒が入り込んでいた。
やべぇなぁばばあに怒られると頭をぼりぼりかいた。
ぼぉっとする頭で生徒を見る。
土方だ。
それに気づいたのはいいが、どう声をかけようか。
フェンスごしにはるか下にあるグラウンドの土を見つめている。
高い所すきなのかしら?
「何、君も自殺願望者?」
ぽかんと俺をみる土方がそこにはいた。
ああ、やっちゃったかな?
「来たかったから…」
だから鍵が開いていたから入ってきてしまったと。
素直で美人で…本当にカワイイなぁと思った。女の子だったらなぁ。
そんなに好きなのだろうか。怒られるのか覚悟しているだろう土方はフェンスからてこでも動かなさそうだ。
俺は屋上と書かれたキーホルダー付の2本の鍵をポケットから取り出し、片方をかちりと外して、土方に差し出した。
「じゃあ時々くれば?ここが先生に見つからない場所だからって、授業をサボるのに使わないんだったらあげる」
そのまま土方は鍵をみつめていた。
「無くすなよ。スペアそれしかないから」
そういってタバコをつけた。
土方は週に何度か屋上へ行っていた。
俺は帰る前に屋上に毎日のように足を運んだ。
土方が来ている時は、帰るのを促して帰った。
別に土方だって鍵をもっているのだからそんなことをする必要は無かったが、俺の足はいつも屋上へ向かっていた。
「せんせいー!土方君がいません!」
ある日午後の授業へいくと女顔の生徒、土方の幼馴染沖田くんが教えてくれた。
そう沖田がいうと隣の神楽の顔がゆがんだ。
神楽は俺に懐いている。と思う。神楽は去年からの俺の生徒だ。
去年はクラスにあまりいなかったのに今年はよく教室にいるようになった。
しかし、めずらしい。他人がいないというので顔をゆがませるようになるだなんて。
「銀ちゃん土方授業でないのおかしいネ!」
「そうなの?どうでもいいけど、先生でしょ。先生。」
神楽の台詞にすぐさま訂正を入れる。
「銀ちゃん!」
「直す気ないよね。いいけどね。先生めげないけどね」
「探してきて!!」
神楽に廊下に押し出されて、扉をしめられてしまった。
土方がいる場所なんてお前の方がわかるんじゃないのか。
ぼりぼりと頭をかいた。
言ったって行けと命令されるだけだ。
授業をやるより、土方を探す方が楽だ。
俺は廊下を歩き始めた。
ふらふらと廊下を徘徊した。
タバコをつけて、吸う。煙が肺に入ってくる感覚がした。
ああ、もうこっちの方が面倒くさいかも。
大体、律儀に土方なんて探しに行かずに、屋上とかでタバコふかしてるほうが俺らしいし…
今日なんてすごい いい天気だし、ばかばかしいし…
その考えに至って、少し考えた。
あいつも、もしかしたらいるのかな
屋上のドアノブをかちりとまわすと、あきらかに開いている。
きぃと静かに開けて中をのぞいた。
ああ、まっくろなやつがいる。
「土方」
土方はがばりと起き上がって驚いた顔で俺を見た。
「先生、放課後とか休み時間ならいいよって約束であげたんだけど。」
本当はサボることなんてどうでもいいのだが、一応先生でしょ。俺って。
タバコを床に落として、足でつぶした。
土方が言い訳を言ったりしてたけど、そんなのどうでもよくて早く教室に戻って欲しかった。
面倒くさい。
しゃがんで、土方と顔が近くなった。
ああ、ほんと綺麗な顔だな。
じっと見ていると、土方と視線が剥がせない。
土方が俺を見ていた。
なぜかそれだけで嬉しくなって、興奮している自分に気づいた。
「そんな見つめられると照れるんですけど?」
そう言って、土方ははっとしてうつむいた。
そんな仕草も表情もかわいいなぁと思う。
それから、土方は立ち上がって、フェンスに向かい俺にこういった。
「せんせい、俺ここから飛び降りて着地します」
頭ががつんと殴られた気がした。
平静を装ったが、それが余計に彼を煽ったようだった。
土方はフェンスを超え、何も頼りが無い場所へと降り立った。
俺は焦った。飛び降りるってどういうことか分かっているのかと。
いなくなる。
この子が俺の前から。
そう思ったら、真顔で土方にやめろと言った。
どんな表情か自分では分からないが、土方の顔が驚いていたので多分すごい顔だったんだと思う。
急に俺の目の前から、土方が消えたのが見えた。
フェンスをよじ登って、下を見ると土方はいなかった。
目の前が真っ暗になって、足が崩れた。
土方…!
少し角度を変えて見ると、少し床が出来ているところに土方は落ちていた。
怒鳴って土方を呼びつけ、そして抱きしめた。
華奢な体を自分の腕におさめると、やっと落ち着いた。
土方はずっとごめんなさい、と繰り返していた。
俺はその日腰が抜けたのだが、そのせいで土方に情けないと言われた。
すごく惨めな気がした。
その日から土方は俺を避けた。
屋上にも来なくなったし、授業中俺をみることもなくなった。
俺は
彼氏から紹介される彼氏。
自分はもっと冷静に対処できる人間だと思っていた。
こんなにも動揺して、狂いそうになるなんて。
がりがりと痒いわけでもないのに、癖でかいてしまう。
けだるい体でなんとか保って、授業をしている。
黒板に分かりやすいように、文字を書き連ねていく。
俺は、高校生の担任をしている。
お登勢という校長…もといばばあのコネで特にしっかりとした面接もせず、この学校に勤めはじめた。
特に、執着など無い。
楽なのが一番いい。
俺は一番面倒なことが嫌いだ。
4月の数ヶ月前にそろそろ担任をつとめてもいいだろうと言われ、
(まぁ確かに順番的には俺の番だった。)了承した。
一年目はまぁ普通のクラスで、初々しいピカピカの一年生が相手でとても楽だった。
しかし、二年目はクラス替えがある。そして年々一番のお荷物が集まると言われているZ組。
その担当にさせられた。
お登勢からクラスメンバーの資料を渡され、頑張れと商業担当の坂本に言われた。
うんざりであった。
顔を覚えるのは4月からでいいと、ばさりと資料をどこかへ放り投げた。
俺はそれを後から後悔する事になる。
Z組の最初の挨拶もすませ、自己紹介もしていたが、俺はさして興味が無かった。
2年間一緒ではあるが、名前や面なんてもの半年もすれば徐々に覚えていけるであろう。
焦るのは俺の趣味じゃなかった。
「よぉ、先生」
後ろから声をかけられる。相手はまぁ大体わかっている。
彼氏、だ。
別に俺は男などには興味はない。付き合うのなら断然女がいいに決まっている。
しかし、なぜか俺は女だけではなく、男にもモテていた。
俺は面倒くさくて誰から告白されても、あーいいよ~と軽く流していた。
まぁ数ヶ月も続かない、数日で終わる関係なのだが。
こいつも何人目かの 彼氏、 だ。
「なんだよ。また金せびりに来たのか?ぼっちゃんの方が金あるんだから、安月給の先生にたからないで」
Z組のおぼっちゃん、高杉晋助である。
おもしろそうだな、つきあえよ。といわれたのがきっかけだったろうか。
他の「彼氏」とは違い、熱っぽい眼差しを受けた事も無い。
とにかく冗談半分の付き合いだ。
どちらかと言えば俺がこいつのパシリになっているような気がする。
先生、立場ないわぁ…
「ああ、安心しろよ。もうおめーの彼氏でもなんでもねぇから。おめぇつまんねぇんだもんなぁ。さすが年食ってるだけあるっていうの?お前ももう俺の彼氏面すんなよな」
「あのねぇ先生はお前のことなんか最初からどうでもいいの。あと、先生に向かって偉そうだから君。」
ため息まじりでそう答え、彼氏でもなんでもないと言われ、安心さえした。
「次はさ、あいつ。狙ってみようかと思って。」
くい、と親指で指された方向を見る。
黒髪の…男?
「またいたいけな男の子?そろそろ女に目覚めたら?」
「お前の何処がいたいけな男の子だったってんだ?あと女には不自由してない。」
銀八にしっかりツッコミを入れつつ、高校生にしてはすごい発言をした。
「先生、今時の子ホント怖いんだけど…」
そういいながら、元彼氏が次にねらう子はどんなものなのかと見定めた。
身長はすらっと伸び痩せ過ぎず、太過ぎない。
漆黒の黒髪で自分とは違い、直毛。
目つきは鋭くて、気難しそう。
「あ~…ずいぶん美人なこだねぇ。思いっきりモテそうで…ノーマルっぽくない?」
俺もノーマルだけど。
俺は、そゆことに慣れたって言うか…あの子は絶対そういう世界があることさえ知らなさそうでしょ。
「まあ、待て。それだからいいんだよ。分からなさそうなのが一番」
「は?」
すたすたと高杉は黒い綺麗なものに近づいて、その目の前でイキナリ言い放った。
「つきあってくんねぇ?退屈させねぇから。」
はぁああ???!!!!
俺でも思わず心の中で叫んでしまった。
いくらなんでも公衆の面前でそれはないでしょ!
俺、教育って仕事に自信なくしてきた!やめようかしら!
そう目の前の光景に唖然としていたら、相手は。
「いいぜ?俺でいいなら。」
ちょっとまてぇええ!
ツッコミを入れるしかない。
えっ!君それでいいの?!
ほら!隣に居た女顔のお友達だっていいんですかィって聞いてるぜ?!
は?いいも悪いもないだろ…って真性ですか君は真性だったんですか?!
人は見かけによらないって小学校の先生言ってたの思い出した!
先生教えてくれてありがとう!!
俺は顔には出さないが、今までで一番動揺していたと思う。
ぐい、と高杉はその黒い子の肩をつかみ、俺の方にやってきた。
そして、
「こいつ、俺の彼氏。土方十四郎な」
にやっと笑って俺に紹介した。
「…はぁ??!!!!」
思っても居ない方向からその声は聞こえた。
名前は…ひじかたとうしろうクン。
どこのクラスの子なんだろう…
「彼氏ってなんだよ!」
「お前、いいっていっただろ?」
な?先生も見てただろ?と高杉は俺にふってくる。やめてほしい。
目の前で言い合いが始まった。
言い合いと言っても、片方しか熱は入っていないが。
「おまっ!どっか出かけるからついて来てくれって意味だろ?!かれ…彼氏ってどういうことだ!」
「………」どうやらベタな勘違いだったようだ。ひじかたクンもパニック状態だ。
「…俺は本気だぜ?」
高杉はひじかたクンの肩に、なだれかかっている状態。当然二人の距離は近い。
目の前で真剣な顔で(少し悲しそうな演技も入っている)そう言われて、ひじかたクンは罪悪感を顔に浮かべた。
「すまねぇ…お前の気持ち…冗談かと思って…」
あらら。驚いた。本当に素直なのねこの子…
汚してはいけない存在って感じ。
「分かってくれたらいいんだよ…」
耳元で高杉はそう囁いたのを俺は聞いた。
びくっ!とひじかたクンの肩が跳ねたのを俺は見逃さなかった。
そうすると、どんどん顔が赤面していき、はなせと高杉に何度も要求した。
俺は、女の子みたいな反応するなぁとまじまじと見て思った。
「せっ…先生も今の高杉の冗談ですから…!本気にしないで下さい!」
初めて黒い瞳が俺をみた。
顔は耳まで真っ赤で、俺に忘れろと懇願する。
赤面しているせいで心なしか、瞳に潤んだものが見受けられた。
守ってあげたいってこんな感じの子の事だよねぇ。
自分に告白をする女子は大抵、がつがつした子ばかりだったのでこういうタイプの女の子(この子は男だが)は珍しい。
しかたない、と俺はため息を吐く。(高杉の遊びに巻き込まれるのが面倒だった)
「高杉、困ってるから放してあげなさい」
俺に言われた高杉は遊び終わったと思ったのか、簡単にするりと放してすたすたと言ってしまった。
少し、胸を撫で下ろしてひじかたクンを見た。
「楽しかったぜ土方~またなぁ」
「またなんて絶対ねェ!!」
土方は後姿の高杉に大声で怒鳴っていた。
周りの人はなんだなんだと注目する。俺まで注目された。
「廊下では静かにね、ひじかたクン」
まわりの迷惑の事を考え、ひじかたクンを たしなめた。
ひじかたクンは くる、と振り返って、ぺこりとお辞儀をした。
「せんせい、ありがとうございました。」
あらあら。礼儀は正しいのねぇ。育ちがいいのだろうか。俺は感心した。
「授業も始まるから、もう自分の教室もどんな?」
いいから、と俺はひじかたクンを促す。
「………?」
「…?だから、自分の教室…」
「先生は行かないんですか?」
「?俺?俺は今から自分の受け持ちの子たちのところに行くよ?」
HRあるし、と付け加えた。
「……………」
「え?何?ていうか、ホントに遅れ…」
俺は時計を見て、あと数分だったので焦った。
この子美人だけど、じれったい!
「先生、俺何組か知ってます?」
マンモス校のこの学校で全員の生徒を覚える先生はすごいと思うけど。
「…?いや、知らない…」
「…………今ってもう5月になりますよね」
そろそろ皆新しいクラスに慣れはじめるころだ。グループなども出来始める。
「よくわかんないけど、歩きながらでいい?」
本気で遅れそうだった。
いつのまにか、この子の女顔の友達も居なくなっている。
二人で並んで2年の教室に向かった。
本当に綺麗な子だなぁと思う。
まだ伸び盛りであろう身長は俺のちょうどアゴあたりにある。
髪の毛はさらさらとしていて、なでてみたいなぁと思う。
ぁあ…こういう黒髪の女って俺みたいなのに寄って来ないんだよなぁ。
うわぁ…腰ほそい…何食ってんだろ。
もんもんと色々な考えがめぐった。
「先生着きました。」
そういわれて、はっと我に返る。
そこは自分の受け持ちのZ組のクラスの前だった。
「ありが…」
俺が礼を言う前に、がらっと勢いよくひじかたクンは扉を開けた。
あれ?そこまでしてくれなくても俺自分で扉くらい開けられるけど?
ひじかたクンがZ組に入っていくのが不思議でたまらなかった。
教室をのぞくと、ひじかたクンが前から3番目の席に座った。
ひじかたクンって俺の受け持ちだったの??!!
そのとき、雷を打たれたように俺は突っ立っていたと思う。
後から、土方にちゃんとクラスの生徒くらいは把握してくださいと起こられる羽目になった。
クラスにこんな美人な子がいるとわかっていたら、俺だって当然資料だって喜んでみた。
女でも男でも美人な子は目の保養だ。
やっかいなZ組の担当ということだって、少しは憂鬱さが軽減されたはずだし。
なぜ教えてくれなかったと、坂本やお登勢を責めた。
お前が悪いんだろうと返されたが、俺は腹が立っていた。
だって、2年生になったばかりで新しいクラスでやっていけるだろうかと不安を募らせる土方や、
2年生での新しい友達が出来、嬉しさに頬をそめる土方や、
今まで分の、俺時の土方の授業態度などを見逃したんだぞ??!!
坂本にわめいたら、「おんしがそんなことで怒るなんて珍しいきに~」
いいのぅ。久しぶりに輝いてる目を見たと、言い出した。
…確かに俺は一体どうしてこんなことで急に怒りがこみ上げたのだろう。
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俺はいつも、お登勢の説教や、坂本のおりょう先生話などを避けるために屋上に逃げ込んでいた。