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彼氏から紹介される彼氏。
自分はもっと冷静に対処できる人間だと思っていた。
こんなにも動揺して、狂いそうになるなんて。
がりがりと痒いわけでもないのに、癖でかいてしまう。
けだるい体でなんとか保って、授業をしている。
黒板に分かりやすいように、文字を書き連ねていく。
俺は、高校生の担任をしている。
お登勢という校長…もといばばあのコネで特にしっかりとした面接もせず、この学校に勤めはじめた。
特に、執着など無い。
楽なのが一番いい。
俺は一番面倒なことが嫌いだ。
4月の数ヶ月前にそろそろ担任をつとめてもいいだろうと言われ、
(まぁ確かに順番的には俺の番だった。)了承した。
一年目はまぁ普通のクラスで、初々しいピカピカの一年生が相手でとても楽だった。
しかし、二年目はクラス替えがある。そして年々一番のお荷物が集まると言われているZ組。
その担当にさせられた。
お登勢からクラスメンバーの資料を渡され、頑張れと商業担当の坂本に言われた。
うんざりであった。
顔を覚えるのは4月からでいいと、ばさりと資料をどこかへ放り投げた。
俺はそれを後から後悔する事になる。
Z組の最初の挨拶もすませ、自己紹介もしていたが、俺はさして興味が無かった。
2年間一緒ではあるが、名前や面なんてもの半年もすれば徐々に覚えていけるであろう。
焦るのは俺の趣味じゃなかった。
「よぉ、先生」
後ろから声をかけられる。相手はまぁ大体わかっている。
彼氏、だ。
別に俺は男などには興味はない。付き合うのなら断然女がいいに決まっている。
しかし、なぜか俺は女だけではなく、男にもモテていた。
俺は面倒くさくて誰から告白されても、あーいいよ~と軽く流していた。
まぁ数ヶ月も続かない、数日で終わる関係なのだが。
こいつも何人目かの 彼氏、 だ。
「なんだよ。また金せびりに来たのか?ぼっちゃんの方が金あるんだから、安月給の先生にたからないで」
Z組のおぼっちゃん、高杉晋助である。
おもしろそうだな、つきあえよ。といわれたのがきっかけだったろうか。
他の「彼氏」とは違い、熱っぽい眼差しを受けた事も無い。
とにかく冗談半分の付き合いだ。
どちらかと言えば俺がこいつのパシリになっているような気がする。
先生、立場ないわぁ…
「ああ、安心しろよ。もうおめーの彼氏でもなんでもねぇから。おめぇつまんねぇんだもんなぁ。さすが年食ってるだけあるっていうの?お前ももう俺の彼氏面すんなよな」
「あのねぇ先生はお前のことなんか最初からどうでもいいの。あと、先生に向かって偉そうだから君。」
ため息まじりでそう答え、彼氏でもなんでもないと言われ、安心さえした。
「次はさ、あいつ。狙ってみようかと思って。」
くい、と親指で指された方向を見る。
黒髪の…男?
「またいたいけな男の子?そろそろ女に目覚めたら?」
「お前の何処がいたいけな男の子だったってんだ?あと女には不自由してない。」
銀八にしっかりツッコミを入れつつ、高校生にしてはすごい発言をした。
「先生、今時の子ホント怖いんだけど…」
そういいながら、元彼氏が次にねらう子はどんなものなのかと見定めた。
身長はすらっと伸び痩せ過ぎず、太過ぎない。
漆黒の黒髪で自分とは違い、直毛。
目つきは鋭くて、気難しそう。
「あ~…ずいぶん美人なこだねぇ。思いっきりモテそうで…ノーマルっぽくない?」
俺もノーマルだけど。
俺は、そゆことに慣れたって言うか…あの子は絶対そういう世界があることさえ知らなさそうでしょ。
「まあ、待て。それだからいいんだよ。分からなさそうなのが一番」
「は?」
すたすたと高杉は黒い綺麗なものに近づいて、その目の前でイキナリ言い放った。
「つきあってくんねぇ?退屈させねぇから。」
はぁああ???!!!!
俺でも思わず心の中で叫んでしまった。
いくらなんでも公衆の面前でそれはないでしょ!
俺、教育って仕事に自信なくしてきた!やめようかしら!
そう目の前の光景に唖然としていたら、相手は。
「いいぜ?俺でいいなら。」
ちょっとまてぇええ!
ツッコミを入れるしかない。
えっ!君それでいいの?!
ほら!隣に居た女顔のお友達だっていいんですかィって聞いてるぜ?!
は?いいも悪いもないだろ…って真性ですか君は真性だったんですか?!
人は見かけによらないって小学校の先生言ってたの思い出した!
先生教えてくれてありがとう!!
俺は顔には出さないが、今までで一番動揺していたと思う。
ぐい、と高杉はその黒い子の肩をつかみ、俺の方にやってきた。
そして、
「こいつ、俺の彼氏。土方十四郎な」
にやっと笑って俺に紹介した。
「…はぁ??!!!!」
思っても居ない方向からその声は聞こえた。
名前は…ひじかたとうしろうクン。
どこのクラスの子なんだろう…
「彼氏ってなんだよ!」
「お前、いいっていっただろ?」
な?先生も見てただろ?と高杉は俺にふってくる。やめてほしい。
目の前で言い合いが始まった。
言い合いと言っても、片方しか熱は入っていないが。
「おまっ!どっか出かけるからついて来てくれって意味だろ?!かれ…彼氏ってどういうことだ!」
「………」どうやらベタな勘違いだったようだ。ひじかたクンもパニック状態だ。
「…俺は本気だぜ?」
高杉はひじかたクンの肩に、なだれかかっている状態。当然二人の距離は近い。
目の前で真剣な顔で(少し悲しそうな演技も入っている)そう言われて、ひじかたクンは罪悪感を顔に浮かべた。
「すまねぇ…お前の気持ち…冗談かと思って…」
あらら。驚いた。本当に素直なのねこの子…
汚してはいけない存在って感じ。
「分かってくれたらいいんだよ…」
耳元で高杉はそう囁いたのを俺は聞いた。
びくっ!とひじかたクンの肩が跳ねたのを俺は見逃さなかった。
そうすると、どんどん顔が赤面していき、はなせと高杉に何度も要求した。
俺は、女の子みたいな反応するなぁとまじまじと見て思った。
「せっ…先生も今の高杉の冗談ですから…!本気にしないで下さい!」
初めて黒い瞳が俺をみた。
顔は耳まで真っ赤で、俺に忘れろと懇願する。
赤面しているせいで心なしか、瞳に潤んだものが見受けられた。
守ってあげたいってこんな感じの子の事だよねぇ。
自分に告白をする女子は大抵、がつがつした子ばかりだったのでこういうタイプの女の子(この子は男だが)は珍しい。
しかたない、と俺はため息を吐く。(高杉の遊びに巻き込まれるのが面倒だった)
「高杉、困ってるから放してあげなさい」
俺に言われた高杉は遊び終わったと思ったのか、簡単にするりと放してすたすたと言ってしまった。
少し、胸を撫で下ろしてひじかたクンを見た。
「楽しかったぜ土方~またなぁ」
「またなんて絶対ねェ!!」
土方は後姿の高杉に大声で怒鳴っていた。
周りの人はなんだなんだと注目する。俺まで注目された。
「廊下では静かにね、ひじかたクン」
まわりの迷惑の事を考え、ひじかたクンを たしなめた。
ひじかたクンは くる、と振り返って、ぺこりとお辞儀をした。
「せんせい、ありがとうございました。」
あらあら。礼儀は正しいのねぇ。育ちがいいのだろうか。俺は感心した。
「授業も始まるから、もう自分の教室もどんな?」
いいから、と俺はひじかたクンを促す。
「………?」
「…?だから、自分の教室…」
「先生は行かないんですか?」
「?俺?俺は今から自分の受け持ちの子たちのところに行くよ?」
HRあるし、と付け加えた。
「……………」
「え?何?ていうか、ホントに遅れ…」
俺は時計を見て、あと数分だったので焦った。
この子美人だけど、じれったい!
「先生、俺何組か知ってます?」
マンモス校のこの学校で全員の生徒を覚える先生はすごいと思うけど。
「…?いや、知らない…」
「…………今ってもう5月になりますよね」
そろそろ皆新しいクラスに慣れはじめるころだ。グループなども出来始める。
「よくわかんないけど、歩きながらでいい?」
本気で遅れそうだった。
いつのまにか、この子の女顔の友達も居なくなっている。
二人で並んで2年の教室に向かった。
本当に綺麗な子だなぁと思う。
まだ伸び盛りであろう身長は俺のちょうどアゴあたりにある。
髪の毛はさらさらとしていて、なでてみたいなぁと思う。
ぁあ…こういう黒髪の女って俺みたいなのに寄って来ないんだよなぁ。
うわぁ…腰ほそい…何食ってんだろ。
もんもんと色々な考えがめぐった。
「先生着きました。」
そういわれて、はっと我に返る。
そこは自分の受け持ちのZ組のクラスの前だった。
「ありが…」
俺が礼を言う前に、がらっと勢いよくひじかたクンは扉を開けた。
あれ?そこまでしてくれなくても俺自分で扉くらい開けられるけど?
ひじかたクンがZ組に入っていくのが不思議でたまらなかった。
教室をのぞくと、ひじかたクンが前から3番目の席に座った。
ひじかたクンって俺の受け持ちだったの??!!
そのとき、雷を打たれたように俺は突っ立っていたと思う。
後から、土方にちゃんとクラスの生徒くらいは把握してくださいと起こられる羽目になった。
クラスにこんな美人な子がいるとわかっていたら、俺だって当然資料だって喜んでみた。
女でも男でも美人な子は目の保養だ。
やっかいなZ組の担当ということだって、少しは憂鬱さが軽減されたはずだし。
なぜ教えてくれなかったと、坂本やお登勢を責めた。
お前が悪いんだろうと返されたが、俺は腹が立っていた。
だって、2年生になったばかりで新しいクラスでやっていけるだろうかと不安を募らせる土方や、
2年生での新しい友達が出来、嬉しさに頬をそめる土方や、
今まで分の、俺時の土方の授業態度などを見逃したんだぞ??!!
坂本にわめいたら、「おんしがそんなことで怒るなんて珍しいきに~」
いいのぅ。久しぶりに輝いてる目を見たと、言い出した。
…確かに俺は一体どうしてこんなことで急に怒りがこみ上げたのだろう。
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俺はいつも、お登勢の説教や、坂本のおりょう先生話などを避けるために屋上に逃げ込んでいた。