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joke 03 指きりげんまん針千本。2(銀土)
土方は屋上で2度坂田に抱きしめられた。
その香りと、友達と言われて幸せで、浮かれていた。
坂田は優しいとおもう。
いつもだらだらと授業を進めるが、相談ともなると真剣に聞いてくれているらしい。
(近藤さんの恋愛話をちゃんと聞いてやったというのだから驚きだ)
多分慕われるのはそのせいだと思う。
面倒くさいといいながらも、世話をやく坂田は学校の人気者だ。
そう、奴は悩んでいる人間に優しい。
坂田から見れば、俺は自殺をしようとした人間なんだ。
自殺をしようとした生徒だなんて、見張っておくに越した事はない。
もうこれ以上自殺なんて考えないように、色々と気を使うのではないだろうか。
だから友達だなんていったのではないか。
土方は屋上で抱きしめられた日にふとその考えに至った。
それから坂田に話しかけられると、同情の目で見られていると思っただけで切なかった。
俺は友達だと思っているけれど、坂田はどうかわからない。
同情で、先生という立場から生徒の監視役として話しかけて、気をまわして…
最近は、そのことで頭がおかしくなりそうだった。
坂田とは、先生と生徒という関係ではなく、友達と言う関係になりたかった。
自分はつくづく坂田に好意があるのだなぁと感じるのだ。
いや、好意と言うよりは坂田は「先生」とは思えないからだろうか。
(あんな奴が先生って…)
今までの先生とはあきらかに違う坂田を土方は思った。
(どちからといえば、兄貴って感じだよな。)
(クラスのメンバーは妹、弟って感じで…)
「トシ~」
「近藤さん」
土方の幼馴染で豪気な性格の持ち主だ。ゴリラのストーカーだ。
「てめっ…ちょ、こっちこいやぁああ近藤さんバカにすんな!」
いやです。あなたが来ればいいでしょう。殺すぞ。いいから話進めろや。
お妙が勝手にナレーションをし始めた事は置いておいて、問題は近藤だ。
「どうしたんだよ。あんたがそんな顔するなんて」
「今日坂田先生にノート提出しに行かなくちゃならないんだが…道場のほうが…今日親父がいなくてな…」
「先生が?」
近藤の家は剣道道場で、そこに土方と沖田は小さなころから通っていて、剣道以外のことでもお世話になっている。
「だから坂田先生に代わりにノート出しておいてもらえねぇか?」
まだ、出来てなくて放課後までには出来ると思うから。と近藤は言った。
「あ…ああ構わねぇよ」
近藤たってのお願いだ。当然、引き受ける。
土方は坂田に会うのは嬉しいが、少し戸惑う。
土方はずっと坂田に言った方がいいと思っていた。
同情なんてしなくていいと。
放課後、チャイムと同時に土方にノートを渡したら近藤は走って帰っていった。
土方はそのまま職員室に向かった。
「しつれいします」
礼をして、まっすぐ坂田の机にむかった。
「おう、土方どうした?」
あいかわらず、坂田の机にはお菓子がいっぱい並んでいて、あまったるい匂いがした。
隣の先生とか迷惑してねぇのか?これ…
というくらい周辺が甘い。
「えっと…近藤さんが用あって来れなくて…これ、ノートです」
「あ~…あいつ んな急がなくていいっていったのに…まぁ、サンキュ」
坂田は土方からノートを受け取り、そのへんのプリントの山に とさっ、と置いた。
「じゃあ、失礼します」
土方は用がすんだとばかりに身をひるがえした。
「あ、まって」
坂田に呼び止められ、首をまわす。
「いくの?」
坂田はどこに、とは言わなかったが土方にはその場所が分かっていた。
「…心配しなくても行きません」
どうせまた屋上に行って自殺するとでも考えているのだろう
(この屋上の鍵だってきっと、引っ込みがつかなくて返してと言えないのだろう?)
土方は坂田をすこし睨みながら思った。
「や、別に心配はしてねぇけど…行くんだったらちょっと待ってて」
あとでいくから。
そういって坂田は腕をひらひらさせて、お疲れ様~と土方を見送った。
職員室から出た土方は疑問でいっぱいだった。
心配はしていない?どういうことだ。
それに、あとでいくからって…別に俺は屋上なんて今日は、行く気なかったし…
坂田は、あとでいくからと言っていた。
…俺も行かなくちゃなんねぇのか?
しかし、土方も坂田に言いたいことがあった。
ちょうどいいだろう。
土方はそのまま屋上に直行した。
誰もまわりにいないか確かめて、屋上の鍵を開けた。
するり、と屋上に入って坂田を待った。
ごろん、と横になりながら土方は空を仰いだ。
暖かく、風も気持ちよく吹いていた。
「ひじかた」
どうやら眠ってしまったらしい。
「ぅ…ん…」
体を起こして目をこすりながら、目の前の人を見上げた。
白い髪がふわふわと揺れて、死んだような目が土方を見ている。
「起こしてわりぃな。結構待たせちまった。寒くないか?」
まだ、季節は春の終わりだったがそれほど寒くはない。
それに待たせたといっても20分程度だろう。
「や…すみません…寝ちゃったみたいで…」
寝起きのぼうっとする頭でなんとか会話についていこうとする。
「先生、俺に何か用があるんじゃ?」
ああ、と坂田はタバコを取りだし、火をつけた。
「お前が何か言いたそうだったんでな、俺の気のせいかもしれないけど」
どうしてこの男はこんなにも、自分に気を使ってくれるのだろう。
どうしてすべてお見通しなのだろう
土方は坂田の促すような視線でそのまま言いたいことを言った。
「先生。俺もう自殺なんて馬鹿なことしようとしませんし…」
坂田は土方の言いたい事をすべて聞こうと、じっと土方を見つめている。
「…もう…友達…とか気を使わなくていいし…」
土方はどんどん恥ずかしくなって、俯いた。
「ホントです!絶対しません!…指きりしてもいいし!」
ずい!と坂田の目の前に小指をたてて、土方は言った。
しかし、顔はまだ恥ずかしくて下を向いて、目もぎゅう…と閉じていた。
小指を差し出した手はなぜか振るえ、そのままだ。
「だ、だから…同情とか…いらないんで」
そういった瞬間、小指にする、と何か巻きついた。
指切りと言うのだからそれは坂田の小指だったのだけれど。
なぜかその巻きつき方にぞくぞく、と背筋が寒くなった。
「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます」
土方は坂田が棒読みで歌っていてすこし可笑しくて笑った。
「指切った」
つ、と爪で小指の付け根の周りを滑らされたのを感じた。
本当に切られた様で、不思議な感覚がした。
「もうあぶねぇことしないって約束な。」
そう言って、そのまま屋上の扉へと坂田は消えていった。
呆然と土方はそこに座り込んだままだ。
坂田の触れた小指が暑いような気がした。
がちゃ
びくりと体がはねた。
土方は扉に再び現れた坂田に目をうばわれた。
に、と妖艶に笑って、土方を見ていた。
「そうそう。いい忘れてたけど…指きりって遊女が小指を切って愛の証に男に送ったりしたんだってよ」
「…は?」
「小指、差し出したのはお前だぜ?」
坂田が階段を降りていく音が頭にがんがんと鳴った。
愛の証?
男に小指を?
遊女が?
女が男へ
単語だけが頭の中をぐるぐるとまわる。
「ちょ…!」
まて、と坂田を追いかけたが、もうすっかり坂田の姿はなかった。
どういう意味だ
そういえば坂田は自分のことは同情だったのだろうか?
結局聞けずじまいだった。
それよりもっと他の悩み事が出来て土方は頭をかかえた。
愛ってなんだ。
そのあと教室にまだ残っていた沖田と神楽にどうしたのかと聞かれ、愛の証だのなんだの恋か病気かしつこくいい寄られたのだった。
さらに頭が痛くなった。