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2025年05月11日
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仮金魂

2006年10月01日

「愛してる」

そんな言葉に何度騙されるフリをしてきたのだろう。

「君だけだよ」

そんな言葉に何度、現実だと錯覚しかけたか。

夢物語のようなこの夜のネオンが主張するこの場所を何度訪れるのをやめようと思ったか。








「トシちゃん。きいてる?」
艶のある声が耳元でささやかれた。
その声の主は、自分の首に腕を絡ませて、ソファごしに自分を抱きしめてきていたようだった。
胸元がざっくり開いたチャイナドレスを身にまとい、妖艶な笑みを浮かべるのは神楽だ。
ここのホストクラブのオーナー兼経営者である。
その神楽に腕をまわされている、ここのホストクラブに新しく入ったばかりの土方は考え事をしていたので全然聴いていなかった。
「ぁあ…すまねぇ…ちょっと考え事しててな」
「金ちゃんのこと?」
ずばり言い当てたと得意げに神楽は笑う。
キレイに笑うけれど、目は笑わない女だなと土方は思う。

「トシちゃん金ちゃんに何かされたカ?私トシちゃん大好きネ。いくら金ちゃんでも許さないアル」
ぎゅう、とまわされた腕に力が入った。
「いや、そんな何をされたっていう訳じゃねぇよ」
「ホントカ?」
ああ、と返事を返せば納得したように笑顔をよこす。

「ちょっと、いつまで俺の土方にくっついてるわけ?」
びく、と体がその声を聞いた途端に跳ねた。
『俺の』
それを聞いた土方の心臓が、どくどく、と鳴り出したのが聞こえてきた。
金時が俺のことを…と、思いかけたところで土方はその思考を止めた。

違う。そうじゃないんだ。こいつの言葉には意味なんてない。

土方はこの金髪のナンバーワンホストに淡い想いを抱いている。
初めて、町で声をかけられた時、いわゆる一目惚れってやつだ。
土方は俯き、金時と神楽の会話を聞いていた。

「いつどこで何時何秒トシちゃんが金ちゃんだけのものになったアル」
「うっせぇな。おめぇが連れてきたんじゃねぇだろ。俺なの、俺がこの子をスカウトした瞬間から俺のものなの」
ああ、そういう意味だよな と土方はぎゅうと目をつぶり、心臓の音が止むのを待った。
心臓は今、どくどくというよりも、つきりと痛んだ。
「……トシちゃんいじめるのやめて欲しいんだけど。だから金ちゃんには任せて置けないネ」
ちら、と神楽は土方を見たが、すぐに金時に視線を移した。
「いじめてねぇし。…まぁいいけどよ。土方の休憩終わりだから、俺ンとこきてよ。お仕事」
両手を広げて 来い と目で訴えられる。

「仕事ってなんですか」
土方は、目上の人間には決してタメでは話したりしない。
オーナーの神楽の方が金時よりも偉いし、敬語で話すべきなのだが神楽はそれを許さなかったので、いつもの自分らしい話し方をさせてもらっている。
土方はなんで金時は両手をひろげて待っているんだろうと思いながらも、おずおず、と立ち上がって金時の目の前に立った。
すると、すっぽりとその広げた腕で包まれてしまった。

「俺を癒してよ、ひじかた」
「ちょ…!なにすんだあんた!」

心臓がもたない。金時はいつもこのようなスキンシップをとろうとする。
土方はあまりこのような事に慣れていないために、おろおろと金時の腕の中で慌てふためいた。
「あ~…土方っていいにおいすんだよなぁ…しかもこの細い身体。女の子みたいに抱きやすいしなぁ」
「ちょ、何処触って…! いいにおいもしないし、俺は細くないです!来てくれた女に抱きしめさせてもらえばいいでしょう!」
「金ちゃんずるいよ。これがトシちゃんのお仕事なら私、今からお金だしてトシちゃん独り占めネ」
「だめ。お前は俺の太客ってことになってんだから。他のホスト相手はすんな。」
神楽は、まるで少女のように頬を膨らませ、ソファに座って腕と足を組んでいじけた。

「いいから離して下さい!」

まるで土方の意見を聞こうとしない金時に土方が痺れを切らせて訴えた。
「金ちゃん、他の女の子もいるのに。トシちゃんなんて必要ないアルよ」
ずく、と土方の心臓が痛んだ。
そうだ。金時はナンバーワンホストだ。女の子には不自由はしないし、ましてやこんな男なんかお呼びじゃないはず。

「俺、土方愛してるの。」
きゅうっと心臓をつかまれた気がした。
さっきから土方の心臓はおかしくなりそうだ。
「…は…?」
「愛してるんだ土方。お前だけだよ」

何度言われた言葉だろう。
そういって、俺をおとしいれるつもりなんだろう?
俺も愛してると返したら、まるで飽きたおもちゃを捨てるように、俺を手放すんだろう?
他の女たちに言っている所なんてごまんと見てきた。
金時にとっての俺は、なに?
男に…お金を落としていくわけでもないこんな男に、こんな言葉を降らせてなんの意味があるんだ?
わからない。
俺の方が愛してる。愛しているんだ金時。

止まない想いが溢れてきそうで土方は目を伏せた。

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