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2025年05月08日
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joke 01屋上から羽ばたいて着地。(銀土)

2006年08月29日

屋上の出来事は、誰も知らない。
俺とお前しか知らない。

秘密の時間。

「たりぃ」
今日は気持ちがいい晴天で、授業を受けるのが ばかばかしいほどだ。
さらさらとした黒髪が、風とともに頬をなでるのが心地よい。
3年Z組の優等生と知られる土方は ごろり、と横になり空をあおいだ。
ここ屋上というものは、いつも立ち入り禁止で、誰も入れなくなっている。
他の学校で自殺をしたやつがいる、という事で当たり前のように禁止だ。
ばかばかしい、と土方はひとりごちた。

「土方」

いきなりするはずがない声に土方は思わず起き上がる。
先ほど誰も入ってこないように鍵をかけたはずだ。
しかし、声の主を見て土方は あぁ と納得した。
ここの屋上の鍵をくれた張本人。 3年Z組の担任、坂田銀八だったからだ。
「先生、放課後とか休み時間ならいいよって約束であげたんだけど。」
坂田は土方に近づき、吸っていたタバコがちょうど終わったのか床におとし、足でつぶした。
ざり、という音が近かった。
土方はその音に眉をひそめた。

「そうですけど…いいじゃないですか。俺、出席も足りてるし」
「俺が困るの。優等生が不良に走ったとかどうにかしてください先生とか言われるの嫌なの」
それを聞いて土方は、なんだ と思った。
どうせこの男も他の先生と同じなのだと。

屋上の扉が開いている事が一度あり、その時土方はいつも思いを馳せていたこの場所に入り込んだ。
どうやらこの場所の鍵当番はこいつ、坂田であるらしく
鍵をしめるついでに一服しようという坂田が、この場所にいた土方を見つけた。

「何、君も自殺願望者?」

あほか と思った。
学校で空に一番近く、遠くまで眺められるこの場所は誰もが立ち寄ってみたい場所であるだろうに。
学校で生徒が屋上、というだけでその結論に至るのはどうなのだろう。
まぁ、そういう行動に及ぶ奴等が、ここを選ぶことが多いためなのだろうが。
土方はそのまま
「来たかったから」
と素直な答えを返し、担任はじゃあ時々くれば?と合鍵をくれた。
「無くすなよ。スペアそれしかないから」

それは特別なような気がして、とても気分がよかった。
それから、この鍵は土方の宝物となった。
キーホルダーをつけて、肌身離さずもっていた。
大好きな場所への特別な鍵。

「…今、授業中じゃないんですか」
確か自分のクラスは今、この男の授業なのではないか。
始業ベルが鳴ってからもう10分は経っているはずだ。
「土方君が居ないから、ここかなと思って。」
いまは自習。 そういって土方の目の前でしゃがんだ。

顔が近くなって、この男が整った顔なのだと知れる。
ふわふわとした銀色の天然パーマのせいでモテない、と本人は悩んでいるが
こんな顔(とはいっても、生気が感じられなく だらしない顔をしているのだが)をしているのだから
モテるだろう。と土方は思っていた。
大体、この生まれつき銀色という髪の色だ、良くも悪くも目立つだろう。
俺もこのくらい顔がよかったらなぁ、と考えていると

「そんな見つめられると照れるんですけど?」

そう言われ、はっと土方は気づいた。
なんだか恥ずかしくなって、うつむいてしまった。

男に見とれるだなんてありえない

「と、とにかく俺は今は戻る気はありません!」
そういって立ち上がり、土方はフェンスの方に近づいた。
そうすると、下にはグラウンドが一望でき、風がぶわ、と吹いた。

一瞬、変な気が湧いた。

がしゃ、とフェンスを登っていき、向こう側に降り立った。
下がとても近くに感じた。
「せんせい、俺ここから飛び降りて着地します」
振り返って、担任の顔をみて言ったのだが、まったく彼は動じなかった。
ゆっくりとフェンスに近づいて、
「おいで」
とだけ言った。

それがまたなぜか優しくて、もっと…という気が起こった。
「嫌です。ねぇ先生、ここから落ちたら 風 きっと気持ちいい風が受けられますよね」
シャツがひるがえり、黒髪が激しく揺れる。
かなりの強風。
「うん、そうだけど…土方ほんき?」
「はい。」
真剣な顔で言ったはずだ。
とはいえ、自分はポーカーフェイスだった。と土方は心の中で笑った。

がしゃん!

すごい音が目の前でして、びくりと土方は怯んだ。
「いいから、早くこっちにきなさい。土方」

ものすごい形相で坂田は土方を睨んだ。
それはとても珍しいもので、土方を後ずさせる事になった。

「わっ」

「土方!」

坂田の目の前から土方は消えた。
フェンスを登り、急いで下を覗き込んだ。


「土方!」「土方!」


呼んでも声などするはずがない。


「おい…ウソだろ…」




坂田は下を見て、そこにもう一段階くらい下に床をみた。
「………ぁ…」





そこに土方は落ちていた。
「いてぇ」などとのんきなことを言っている。

「土方ァ!戻れ!」

その声にびくり、とまたなって土方は上を見上げた。
怒った坂田の顔に、安堵というものなど映っても居なくて、
さらに怒りをのせたそれに土方は、自己嫌悪でいっぱいになった。

土方はそこからよじ登ってフェンスを登ってきた坂田と対面する。
坂田は先ほどの場所に胡坐をかいている。怒られる前に、と
「ご、ごめんなさい」
土方は謝った。

「こっちきて」

坂田は怒ったような口調でそばにくるようにと言った。
どのくらい近くに行けば良いのだと(もうすでに坂田の目の前に立っているはずだ)
土方は坂田と同じように、としゃがみこんだ。

ふわ、と甘いにおいがした。
そう思ったら坂田に抱きしめられていた。

「ホントに落ちたのかと思った…」
耳元でそう囁かれ、体がびく、とはねたのが土方は自分で分かった。
「ご、ごめ…」
「マジ怒るよ。」
「う…ごめ…」
土方だって怖かったのだ。
本当に落ちるつもりだなんて思っていなかった。

「ホントよかった…」
じわ、と土方は安堵して涙があふれた。
「せんせ…」
「うん」
「こわ、こわかっ…」
「うん。先生も」
ぎゅう、と土方は坂田の肩口に顔を埋めて、その甘いにおいに安心した。

着地する、と冗談で言ったつもりだった。
こいつも同じだ、他の教師と、俺もこいつにとってはただの生徒。

多分、それが嫌だった。

なぜそれが嫌だったのか、今はまだよくわからないけれど。









「たてない」
「は?!」
坂田はぼそりと土方の耳元でそう言った。
「お前のせいで腰が抜けた」
「おまっ…ホント情けねェエエエエエエエ!」

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