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joke 02満面の笑みで「死にたい?」 (銀土)
あの日から俺はおかしい。
狂い始めた時間が過ぎてゆくと共に。
俺はあの日(自殺行為をする気はなかったのにしてしまった日だ)から屋上へはいけなくなっていた。
週に2,3度ほど行っていたのに対して、ここ数週間はまったくと言っていいほど行かなかった。
理由は、「担任、坂田銀八とふたりきりになりたくない」というものだった。
思い起こせば、いつも屋上に行くたびに坂田と会っていたと思う。
たいてい、坂田が もう帰るよ~ といって夜、(屋上の施錠のチェックは毎日するらしく)会っていた。
俺は屋上が好きで(どうやら小さい時から高い場所が好きらしい)ついつい夜までぼ~っとしてしまうのだ。
学校にそんな遅くまで残ってていいのか、と何度か坂田に聞いた事があったが、どうやら平気なようだった。
というより、めんどうくさいから隠れて帰ってとか、誰ももういないから見つからないとか、そんな返答ばかりが帰ってきていた。
話は長くなってしまったが、とにかく屋上は坂田と確実に二人きりになる。
土方は避けていた。
授業中も坂田を見ることをしないで、ノートをとる事に努めた。
見ることをしない…というといつも見ていたと勘違いされそうだが、自分は喋っている人を見る癖があって、先生が喋っているとつい、じっと見てしまうのだ。
いつだったか小学校の時、そんなに先生の事すき?と苦笑いで言われていたものだ。
なぜか聞いてくるのは大抵、女の教師だったが。
(男の教師は気持ち悪いとでも思って近づかないのであろう。聞きもしなかった)
たしか、クラスメイトの沖田にも冗談で言われた事があった。
(そのとき近藤さんもこちらを気にしているのか、ちらちらと俺の返答を待っていたな)
とにかく、坂田とは目を合わせたり、会話をしたりすることを土方は避けた。
どうして避けなきゃいけないんだろう
と、自分でも思ったが、あの日、あの屋上で土方を本気で怒ったあの坂田が怖い。
多分 、 怖いのだ。
実際怖かったし、もう一度あの顔をされるのではないかと思ってしまう。
近づきたくない。
いつのまにやら、放課後で土方は どうしよう と考えた。
土方の両親は共働きで、家には殆どと言っていいほど帰ってこない。
(このご時世、あの両親はよく稼いでいるのだ)
そのため、あまり早くに家には帰りたくない。
屋上にもいけない、となると…
土方は図書室に行く事にした。
今はテスト一週間前なので利用数も多い。
土方は何か軽く読めるものを適当に探して手に取り、一番奥の目立たない席に座った。
図書室は、日陰でひんやりとしている。
落ち着く。
そしてぱらぱらと読み始めると、どうやらその本は当たりだったようで、どんどん話にのめり込んでいった。
だから気づかなかった。近づいてくる人物に。
そいつが自分の目の前の席に座って、じっと土方を見ていたことに。
土方はラストの落ちも気に入ったらしく、満足した顔をして本を読み終わった。
そして、本を戻そうと立ち上がった時、目の前に会いたくないナンバー1。
坂田銀八がいた。
思わず驚いて、椅子をがたがたっと鳴らした。
はっ、とここが図書室なことに気づいた。
そっと土方は気にしないといったように、本を元通りの場所にもどして去ろうとした。
すると
「土方く~ん。進路で相談があるんでしょ~?」
と坂田は大声で言った。
今日はいつもより利用数が多い。その分視線も多く、いつものように大声で相手に返答するほど土方は図太くはなかった。
ここで行かなければおかしい。
まるで土方が呼び出したような言い方を彼はした。
逃げられない。
そう思った。
土方はくるり、と向き直り元の位置におさまった。そして、「…俺、進路の相談なんてしてませんけど」と視線をそらしていった。目はまだ見れない。
「だって土方が逃げるから」
「逃げてなっ…!」
と、また大勢の視線を感じた。
もう絶対こいつの台詞に大声なんか張り上げない!と誓った土方は姿勢を直した。
「逃げてません。俺先生に用なんてありませんし、それに…勝手に先生が目の前に座っていただけじゃないですか」
正論を言えた…と思う。
するとにっこり笑って「ふぅん、そうかもね」なんて坂田は言った。
「でも、屋上に来なくなったのはなんで?」
ぎくり、と内心動揺した。
本当自分がポーカーフェイスで助かったと思った。
「先生に迷惑をかけたので、もう屋上は行かない事にしたんです」
多分これも本当だ。でも核心には触れていない。
ふうん、とまた坂田は言った。
「迷惑だって俺言った?」
(言ってないけど、怒ってたじゃないか!)
土方はつい俯いて「俺が迷惑をかけたと思ったんです」と言った。
「俺を見ないのは、そのせいなの?」
坂田は少し低めの声でそういった。
ぐ、と土方は思わず拳をにぎった。
バレていた。
そんなに通常自分は坂田を見ていただろうか?
いや、そうじゃなくても自分は話している人の目を見る。
そういう奴と急に目が合わなくなったら、当たり前なのだろうか。
「ねぇ、土方?」
びく、と思わず土方は坂田を見た。
声が低く、確実に怒っている声だった。
しかし、顔は…笑っていた。
満面の笑みだ。
「死にたい?」
「え?」
言ってる意味が分からない。
ねぇほんとむかつくなぁお前とか言ってる。
土方は動揺した。嫌われた?と目の前が真っ暗になっていた。
何故嫌われるとそうなるのか良く分からなかったが、ぐらぐらと視界がゆれた気がした。
多分、『殺してやろうか?』という意味だ、と 思 う。
視界は揺れていたが、頭は冷静になっていた。
この教師は自分が嫌いなのだ、とそう悟った。
じわ、となにか目に温かいものが湧き上がってきた。
「何泣いてんの」
そう言われて、初めて自分が泣いてる事に気づいた。
何泣いてんだと、自分でも思った。
制服の袖で目に溜まるものを拭い、土方はがたり、と立ち上がった。
「ありがとうございました。参考になりました。」
と、周りに聞こえるように言って、そのまま図書室を出て行った。
ばかだばかだばかだ。
自分はきっと、坂田に好意を持っていたんだと思った。
だから、特別扱いされたと舞い上がったり、傷ついたりしている。
そして、死にたい?と言われたら絶望的な気持ちになった。
ぁあもうなんでこんなにも自分は馬鹿なのだと思った。
幼稚な子供だ。
思い知った。もういい。
土方は屋上に向かう階段を駆け上って、屋上の扉の前で鍵を取り出して、ばん!と開け放った。
久しぶりの屋上はなぜか涙が出た。
空をみたら切なくなった。
「土方!」
ばん、と勢い良く扉の音がして、そこには坂田がいた。
どうして、と思った。
追いかけてくる必要はないはずだ。
「なん…」
口をあけると余計に涙があふれた。
すると、坂田が近づいてきて土方をみた。
土方は不思議そうな顔で、首を傾け坂田を見つめた。
あ、久しぶりの顔。
そう思うと幸福感が溢れてきて、しあわせだ、と思った。
自分はばかだなぁと、再び土方は思った。
「ごめんな…」
なんのことだろうと、首を傾げた。
ふわり、と甘いにおいが香った。
坂田のにおいだと認識するのが遅くなったほど自分がどうなっているのか分からなかった。
自分は坂田に抱きしめられていた。
「ちょっとお前が屋上に来なくなったからっていじわるしちまった」
いじわる…?
そう思って見上げるように坂田をみた。
そして、苦笑いで坂田は
「俺って子供なの。友達がつれなくなるのなんて耐えられないワケ」
と言った。
ともだち。
そう思ったらなぜか涙が出た。
生徒じゃなくって、ともだち。
それだけで特別だ何て思った。きっと誰かにそう言ったら、小さな幸せだなと、言われそうだ。
自分はきっとそれを求めていたのだと思った。
友達に抱く期待。
それを坂田に俺は抱いていたのだ、と土方は納得した。
「ごめんな?」
坂田は土方の涙を親指の腹で拭って、にこ、と笑った。
さっきのようなウソっぽい笑顔ではなかった。
「俺も…ごめんなさい…先生この間怒ってたから 会うの、怖くて…」
と、土方は友達に白状する時ってこんな感じだと思いながら、ぼそぼそと喋った。
ぎゅう、と坂田の腕の力がその時、強まった気がした。
土方は頭に「?」を浮かべて坂田の白衣をぎゅう、と掴みかえした。
痛くて、思わず掴んだと言った方が正しいか。
すると坂田は土方に掴まれた瞬間 ぴく、と何か反応していた。
なぜかは土方には良く分からなかったが。
「うん…そっか。よかった。嫌われたわけじゃなくって」
坂田はそういって土方の頭に頬をすり、と寄せた。
それが土方はくすぐったくて、身をよじった。
俺も。よかった。嫌われてなくて。
それは言わずに、坂田の腕の中で土方は甘いにおいを楽しんでいた。