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2025年05月10日
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joke 03 指きりげんまん針千本。2(銀土)

2006年08月31日

土方は屋上で2度坂田に抱きしめられた。
その香りと、友達と言われて幸せで、浮かれていた。

坂田は優しいとおもう。
いつもだらだらと授業を進めるが、相談ともなると真剣に聞いてくれているらしい。
(近藤さんの恋愛話をちゃんと聞いてやったというのだから驚きだ)
多分慕われるのはそのせいだと思う。
面倒くさいといいながらも、世話をやく坂田は学校の人気者だ。
そう、奴は悩んでいる人間に優しい。

坂田から見れば、俺は自殺をしようとした人間なんだ。

自殺をしようとした生徒だなんて、見張っておくに越した事はない。
もうこれ以上自殺なんて考えないように、色々と気を使うのではないだろうか。
だから友達だなんていったのではないか。

土方は屋上で抱きしめられた日にふとその考えに至った。
それから坂田に話しかけられると、同情の目で見られていると思っただけで切なかった。

俺は友達だと思っているけれど、坂田はどうかわからない。

同情で、先生という立場から生徒の監視役として話しかけて、気をまわして…
最近は、そのことで頭がおかしくなりそうだった。
坂田とは、先生と生徒という関係ではなく、友達と言う関係になりたかった。
自分はつくづく坂田に好意があるのだなぁと感じるのだ。
いや、好意と言うよりは坂田は「先生」とは思えないからだろうか。
(あんな奴が先生って…)
今までの先生とはあきらかに違う坂田を土方は思った。
(どちからといえば、兄貴って感じだよな。)
(クラスのメンバーは妹、弟って感じで…)

「トシ~」
「近藤さん」
土方の幼馴染で豪気な性格の持ち主だ。ゴリラのストーカーだ。
「てめっ…ちょ、こっちこいやぁああ近藤さんバカにすんな!」
いやです。あなたが来ればいいでしょう。殺すぞ。いいから話進めろや。

お妙が勝手にナレーションをし始めた事は置いておいて、問題は近藤だ。
「どうしたんだよ。あんたがそんな顔するなんて」
「今日坂田先生にノート提出しに行かなくちゃならないんだが…道場のほうが…今日親父がいなくてな…」
「先生が?」
近藤の家は剣道道場で、そこに土方と沖田は小さなころから通っていて、剣道以外のことでもお世話になっている。
「だから坂田先生に代わりにノート出しておいてもらえねぇか?」
まだ、出来てなくて放課後までには出来ると思うから。と近藤は言った。
「あ…ああ構わねぇよ」

近藤たってのお願いだ。当然、引き受ける。
土方は坂田に会うのは嬉しいが、少し戸惑う。
土方はずっと坂田に言った方がいいと思っていた。
同情なんてしなくていいと。

放課後、チャイムと同時に土方にノートを渡したら近藤は走って帰っていった。
土方はそのまま職員室に向かった。
「しつれいします」
礼をして、まっすぐ坂田の机にむかった。
「おう、土方どうした?」
あいかわらず、坂田の机にはお菓子がいっぱい並んでいて、あまったるい匂いがした。
隣の先生とか迷惑してねぇのか?これ…
というくらい周辺が甘い。
「えっと…近藤さんが用あって来れなくて…これ、ノートです」
「あ~…あいつ んな急がなくていいっていったのに…まぁ、サンキュ」
坂田は土方からノートを受け取り、そのへんのプリントの山に とさっ、と置いた。
「じゃあ、失礼します」
土方は用がすんだとばかりに身をひるがえした。

「あ、まって」

坂田に呼び止められ、首をまわす。
「いくの?」
坂田はどこに、とは言わなかったが土方にはその場所が分かっていた。
「…心配しなくても行きません」
どうせまた屋上に行って自殺するとでも考えているのだろう
(この屋上の鍵だってきっと、引っ込みがつかなくて返してと言えないのだろう?)
土方は坂田をすこし睨みながら思った。
「や、別に心配はしてねぇけど…行くんだったらちょっと待ってて」
あとでいくから。
そういって坂田は腕をひらひらさせて、お疲れ様~と土方を見送った。
職員室から出た土方は疑問でいっぱいだった。

心配はしていない?どういうことだ。
それに、あとでいくからって…別に俺は屋上なんて今日は、行く気なかったし…
坂田は、あとでいくからと言っていた。
…俺も行かなくちゃなんねぇのか?

しかし、土方も坂田に言いたいことがあった。
ちょうどいいだろう。
土方はそのまま屋上に直行した。

誰もまわりにいないか確かめて、屋上の鍵を開けた。
するり、と屋上に入って坂田を待った。
ごろん、と横になりながら土方は空を仰いだ。
暖かく、風も気持ちよく吹いていた。


「ひじかた」

どうやら眠ってしまったらしい。
「ぅ…ん…」
体を起こして目をこすりながら、目の前の人を見上げた。
白い髪がふわふわと揺れて、死んだような目が土方を見ている。
「起こしてわりぃな。結構待たせちまった。寒くないか?」
まだ、季節は春の終わりだったがそれほど寒くはない。
それに待たせたといっても20分程度だろう。
「や…すみません…寝ちゃったみたいで…」
寝起きのぼうっとする頭でなんとか会話についていこうとする。
「先生、俺に何か用があるんじゃ?」
ああ、と坂田はタバコを取りだし、火をつけた。
「お前が何か言いたそうだったんでな、俺の気のせいかもしれないけど」
どうしてこの男はこんなにも、自分に気を使ってくれるのだろう。
どうしてすべてお見通しなのだろう

土方は坂田の促すような視線でそのまま言いたいことを言った。
「先生。俺もう自殺なんて馬鹿なことしようとしませんし…」
坂田は土方の言いたい事をすべて聞こうと、じっと土方を見つめている。
「…もう…友達…とか気を使わなくていいし…」
土方はどんどん恥ずかしくなって、俯いた。
「ホントです!絶対しません!…指きりしてもいいし!」
ずい!と坂田の目の前に小指をたてて、土方は言った。
しかし、顔はまだ恥ずかしくて下を向いて、目もぎゅう…と閉じていた。
小指を差し出した手はなぜか振るえ、そのままだ。
「だ、だから…同情とか…いらないんで」
そういった瞬間、小指にする、と何か巻きついた。
指切りと言うのだからそれは坂田の小指だったのだけれど。
なぜかその巻きつき方にぞくぞく、と背筋が寒くなった。
「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます」
土方は坂田が棒読みで歌っていてすこし可笑しくて笑った。
「指切った」
つ、と爪で小指の付け根の周りを滑らされたのを感じた。
本当に切られた様で、不思議な感覚がした。
「もうあぶねぇことしないって約束な。」
そう言って、そのまま屋上の扉へと坂田は消えていった。
呆然と土方はそこに座り込んだままだ。
坂田の触れた小指が暑いような気がした。

がちゃ

びくりと体がはねた。
土方は扉に再び現れた坂田に目をうばわれた。
に、と妖艶に笑って、土方を見ていた。
「そうそう。いい忘れてたけど…指きりって遊女が小指を切って愛の証に男に送ったりしたんだってよ」
「…は?」

「小指、差し出したのはお前だぜ?」

坂田が階段を降りていく音が頭にがんがんと鳴った。
愛の証?
男に小指を?
遊女が?
女が男へ

単語だけが頭の中をぐるぐるとまわる。

「ちょ…!」
まて、と坂田を追いかけたが、もうすっかり坂田の姿はなかった。
どういう意味だ
そういえば坂田は自分のことは同情だったのだろうか?
結局聞けずじまいだった。
それよりもっと他の悩み事が出来て土方は頭をかかえた。
愛ってなんだ。



そのあと教室にまだ残っていた沖田と神楽にどうしたのかと聞かれ、愛の証だのなんだの恋か病気かしつこくいい寄られたのだった。
さらに頭が痛くなった。

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joke 03 指きりげんまん針千本。(銀土)

2006年08月30日

小指とは約束をするときに使うものだと、こちらに来てから誰かに教わった。
私の故郷にそのような まじないは、なかったように思う。

最近、土方がおかしい。
そう思ったのはつい何週か前の話。
ずいぶん前は、授業を真面目に受けていた土方がさぼり、どこかに行っていた。
(その時は具合が悪いのかと心配していたが、隣の席のS王子が それなら絶対意地でも授業を受けて皆に迷惑をかけているはずだと、紙飛行機を私にぶつけながら言った。)
そして授業に出てきたと思ったら真剣にノートだけをとっていた。
(それは当然いつものことなのだが、なぜか先生の話は聞いてなかったように思う)
最近に至っては、どこか暗く思いつめた様子だった。

「なぁ総悟。お前なんか知らないのか?」
「なんですかィあのマヨ人間の事か」
「あのニコ中のことヨ」
「それお前原作設定だろうが。これは3Z設定だろ~ちゃんとキャラ立てろィ」
「うるせェエエエエエエエエ!!!」

神楽のちゃぶ台返しがクラス全体に被害を加え、二人はお妙に説教をくらった。

「…話を戻すネ。土方。あいつ最近浮かない顔。心配ヨ」
「お前ホント土方さん好きな。」
目の前の茶髪の女顔(私よりかわいいんじゃないか…認めないけどな)の男、沖田総悟がため息をついて私を見た。
「土方優しいから好きヨ」
にこ、と笑って、マヨネーズはいけ好かないがな、と付け加えた。
沖田は そうですか とだけ言って黙った。
「何か聞いてないアルか?」
「聞いちゃいないが、きっとありゃあ恋煩いでさァ」

こいわずらい?

「土方さんは恋で悩んでるんでさァ」
そういう沖田をじっとみつめて、それはそんなに悩むものなのかと問うた。
土方さんはね、と意味深な言葉を沖田はこぼす。
「中学校の時にある女に惚れて、土方さんはずいぶん胸を痛めてた。こっちがどうにかなりそうなほどにな」
「それ今と同じネ」
ぱちくりと神楽は沖田の話を聞いてメモを取り始めた。
「でもあの人はそれを自分で自覚していない場合が多いんでさァ」
まるで記者にインタビューでもされているような風に沖田はふんぞりかえった。
ふんふんそれで?と神楽も乗り気。

「おめぇら…何好き勝手な事いってやがる…」


沖田の背後には鬼がいた。
神楽はその形相にビックリしてひく、と顔をひきつらせた。
「ひ、土方…!今までどこいってたカ?」
神楽の質問に土方はびたっと静止して、沖田を殴ろうとしていたのも忘れたように神楽の方を見た。
「べ、便所。」
「へぇ~あんた今の今までそんなに頑張ったんですかィ~いや~すげぇなぁ」
沖田はそういった瞬間に鉄拳を受けた。
「お前マジ死んで来い!」
土方どうどう…神楽は土方をなだめる。

「心中立てでもしてきたのかぃ?」
「シンジュウダテ?」
「愛の証でさァ」
「ほ~」

「勝手に俺抜きで話をすすめるなっ…!!!!!」

土方は顔を真っ赤にして叫んだ。
熱でもあるのか?と思ったがどうやら違うらしい。
「ほんとカ?土方…」
「…………」
ぐ、と土方は言葉を失ったように黙った。
顔は羞恥心でいっぱいのような顔をうつしていた。

自分たちはまだ知らない。
この黒髪の男がどのような思いでいたかなど。
知る由も無かった。

---------------------------------------------------------------------------------------------2へ

「指切り」とは、小指の先を切ること。

かつては、男女の仲で愛の証として特に遊女が実際に小指の先を切って男性に贈ることもあった。

「拳万」とは、拳骨(パンチ)一万回打たれること。

「針千本」針を千本飲ますこと。

ということで、子供が軽々しく口にするには重過ぎる内容だったのだ。

joke 02満面の笑みで「死にたい?」 (銀土)

2006年08月30日

あの日から俺はおかしい。
狂い始めた時間が過ぎてゆくと共に。

俺はあの日(自殺行為をする気はなかったのにしてしまった日だ)から屋上へはいけなくなっていた。
週に2,3度ほど行っていたのに対して、ここ数週間はまったくと言っていいほど行かなかった。
理由は、「担任、坂田銀八とふたりきりになりたくない」というものだった。
思い起こせば、いつも屋上に行くたびに坂田と会っていたと思う。
たいてい、坂田が もう帰るよ~ といって夜、(屋上の施錠のチェックは毎日するらしく)会っていた。
俺は屋上が好きで(どうやら小さい時から高い場所が好きらしい)ついつい夜までぼ~っとしてしまうのだ。
学校にそんな遅くまで残ってていいのか、と何度か坂田に聞いた事があったが、どうやら平気なようだった。
というより、めんどうくさいから隠れて帰ってとか、誰ももういないから見つからないとか、そんな返答ばかりが帰ってきていた。
話は長くなってしまったが、とにかく屋上は坂田と確実に二人きりになる。

土方は避けていた。

授業中も坂田を見ることをしないで、ノートをとる事に努めた。
見ることをしない…というといつも見ていたと勘違いされそうだが、自分は喋っている人を見る癖があって、先生が喋っているとつい、じっと見てしまうのだ。
いつだったか小学校の時、そんなに先生の事すき?と苦笑いで言われていたものだ。
なぜか聞いてくるのは大抵、女の教師だったが。
(男の教師は気持ち悪いとでも思って近づかないのであろう。聞きもしなかった)
たしか、クラスメイトの沖田にも冗談で言われた事があった。
(そのとき近藤さんもこちらを気にしているのか、ちらちらと俺の返答を待っていたな)
とにかく、坂田とは目を合わせたり、会話をしたりすることを土方は避けた。

どうして避けなきゃいけないんだろう
と、自分でも思ったが、あの日、あの屋上で土方を本気で怒ったあの坂田が怖い。
 多分 、 怖いのだ。
実際怖かったし、もう一度あの顔をされるのではないかと思ってしまう。
近づきたくない。

いつのまにやら、放課後で土方は どうしよう と考えた。
土方の両親は共働きで、家には殆どと言っていいほど帰ってこない。
(このご時世、あの両親はよく稼いでいるのだ)
そのため、あまり早くに家には帰りたくない。
屋上にもいけない、となると…

土方は図書室に行く事にした。

今はテスト一週間前なので利用数も多い。
土方は何か軽く読めるものを適当に探して手に取り、一番奥の目立たない席に座った。
図書室は、日陰でひんやりとしている。
落ち着く。
そしてぱらぱらと読み始めると、どうやらその本は当たりだったようで、どんどん話にのめり込んでいった。
だから気づかなかった。近づいてくる人物に。
そいつが自分の目の前の席に座って、じっと土方を見ていたことに。

土方はラストの落ちも気に入ったらしく、満足した顔をして本を読み終わった。
そして、本を戻そうと立ち上がった時、目の前に会いたくないナンバー1。
坂田銀八がいた。

思わず驚いて、椅子をがたがたっと鳴らした。
はっ、とここが図書室なことに気づいた。
そっと土方は気にしないといったように、本を元通りの場所にもどして去ろうとした。
すると
「土方く~ん。進路で相談があるんでしょ~?」
と坂田は大声で言った。
今日はいつもより利用数が多い。その分視線も多く、いつものように大声で相手に返答するほど土方は図太くはなかった。
ここで行かなければおかしい。
まるで土方が呼び出したような言い方を彼はした。

逃げられない。

そう思った。

土方はくるり、と向き直り元の位置におさまった。そして、「…俺、進路の相談なんてしてませんけど」と視線をそらしていった。目はまだ見れない。
「だって土方が逃げるから」
「逃げてなっ…!」
と、また大勢の視線を感じた。
もう絶対こいつの台詞に大声なんか張り上げない!と誓った土方は姿勢を直した。
「逃げてません。俺先生に用なんてありませんし、それに…勝手に先生が目の前に座っていただけじゃないですか」
正論を言えた…と思う。
するとにっこり笑って「ふぅん、そうかもね」なんて坂田は言った。

「でも、屋上に来なくなったのはなんで?」

ぎくり、と内心動揺した。
本当自分がポーカーフェイスで助かったと思った。
「先生に迷惑をかけたので、もう屋上は行かない事にしたんです」
多分これも本当だ。でも核心には触れていない。
ふうん、とまた坂田は言った。
「迷惑だって俺言った?」
(言ってないけど、怒ってたじゃないか!)
土方はつい俯いて「俺が迷惑をかけたと思ったんです」と言った。

「俺を見ないのは、そのせいなの?」
坂田は少し低めの声でそういった。
ぐ、と土方は思わず拳をにぎった。

バレていた。

そんなに通常自分は坂田を見ていただろうか?
いや、そうじゃなくても自分は話している人の目を見る。
そういう奴と急に目が合わなくなったら、当たり前なのだろうか。

「ねぇ、土方?」
びく、と思わず土方は坂田を見た。
声が低く、確実に怒っている声だった。
しかし、顔は…笑っていた。
満面の笑みだ。

「死にたい?」

「え?」

言ってる意味が分からない。
ねぇほんとむかつくなぁお前とか言ってる。
土方は動揺した。嫌われた?と目の前が真っ暗になっていた。
何故嫌われるとそうなるのか良く分からなかったが、ぐらぐらと視界がゆれた気がした。
多分、『殺してやろうか?』という意味だ、と 思 う。
視界は揺れていたが、頭は冷静になっていた。
この教師は自分が嫌いなのだ、とそう悟った。
じわ、となにか目に温かいものが湧き上がってきた。
「何泣いてんの」
そう言われて、初めて自分が泣いてる事に気づいた。
何泣いてんだと、自分でも思った。
制服の袖で目に溜まるものを拭い、土方はがたり、と立ち上がった。
「ありがとうございました。参考になりました。」
と、周りに聞こえるように言って、そのまま図書室を出て行った。

ばかだばかだばかだ。
自分はきっと、坂田に好意を持っていたんだと思った。
だから、特別扱いされたと舞い上がったり、傷ついたりしている。
そして、死にたい?と言われたら絶望的な気持ちになった。
ぁあもうなんでこんなにも自分は馬鹿なのだと思った。
幼稚な子供だ。
思い知った。もういい。

土方は屋上に向かう階段を駆け上って、屋上の扉の前で鍵を取り出して、ばん!と開け放った。
久しぶりの屋上はなぜか涙が出た。
空をみたら切なくなった。



「土方!」

ばん、と勢い良く扉の音がして、そこには坂田がいた。
どうして、と思った。
追いかけてくる必要はないはずだ。
「なん…」
口をあけると余計に涙があふれた。
すると、坂田が近づいてきて土方をみた。
土方は不思議そうな顔で、首を傾け坂田を見つめた。
あ、久しぶりの顔。
そう思うと幸福感が溢れてきて、しあわせだ、と思った。
自分はばかだなぁと、再び土方は思った。
「ごめんな…」
なんのことだろうと、首を傾げた。
ふわり、と甘いにおいが香った。
坂田のにおいだと認識するのが遅くなったほど自分がどうなっているのか分からなかった。
自分は坂田に抱きしめられていた。
「ちょっとお前が屋上に来なくなったからっていじわるしちまった」
いじわる…?
そう思って見上げるように坂田をみた。
そして、苦笑いで坂田は
「俺って子供なの。友達がつれなくなるのなんて耐えられないワケ」
と言った。

ともだち。

そう思ったらなぜか涙が出た。
生徒じゃなくって、ともだち。
それだけで特別だ何て思った。きっと誰かにそう言ったら、小さな幸せだなと、言われそうだ。
自分はきっとそれを求めていたのだと思った。
友達に抱く期待。
それを坂田に俺は抱いていたのだ、と土方は納得した。
「ごめんな?」
坂田は土方の涙を親指の腹で拭って、にこ、と笑った。
さっきのようなウソっぽい笑顔ではなかった。
「俺も…ごめんなさい…先生この間怒ってたから 会うの、怖くて…」
と、土方は友達に白状する時ってこんな感じだと思いながら、ぼそぼそと喋った。
ぎゅう、と坂田の腕の力がその時、強まった気がした。
土方は頭に「?」を浮かべて坂田の白衣をぎゅう、と掴みかえした。
痛くて、思わず掴んだと言った方が正しいか。
すると坂田は土方に掴まれた瞬間 ぴく、と何か反応していた。
なぜかは土方には良く分からなかったが。
「うん…そっか。よかった。嫌われたわけじゃなくって」
坂田はそういって土方の頭に頬をすり、と寄せた。
それが土方はくすぐったくて、身をよじった。

俺も。よかった。嫌われてなくて。

それは言わずに、坂田の腕の中で土方は甘いにおいを楽しんでいた。

joke 01屋上から羽ばたいて着地。(銀土)

2006年08月29日

屋上の出来事は、誰も知らない。
俺とお前しか知らない。

秘密の時間。

「たりぃ」
今日は気持ちがいい晴天で、授業を受けるのが ばかばかしいほどだ。
さらさらとした黒髪が、風とともに頬をなでるのが心地よい。
3年Z組の優等生と知られる土方は ごろり、と横になり空をあおいだ。
ここ屋上というものは、いつも立ち入り禁止で、誰も入れなくなっている。
他の学校で自殺をしたやつがいる、という事で当たり前のように禁止だ。
ばかばかしい、と土方はひとりごちた。

「土方」

いきなりするはずがない声に土方は思わず起き上がる。
先ほど誰も入ってこないように鍵をかけたはずだ。
しかし、声の主を見て土方は あぁ と納得した。
ここの屋上の鍵をくれた張本人。 3年Z組の担任、坂田銀八だったからだ。
「先生、放課後とか休み時間ならいいよって約束であげたんだけど。」
坂田は土方に近づき、吸っていたタバコがちょうど終わったのか床におとし、足でつぶした。
ざり、という音が近かった。
土方はその音に眉をひそめた。

「そうですけど…いいじゃないですか。俺、出席も足りてるし」
「俺が困るの。優等生が不良に走ったとかどうにかしてください先生とか言われるの嫌なの」
それを聞いて土方は、なんだ と思った。
どうせこの男も他の先生と同じなのだと。

屋上の扉が開いている事が一度あり、その時土方はいつも思いを馳せていたこの場所に入り込んだ。
どうやらこの場所の鍵当番はこいつ、坂田であるらしく
鍵をしめるついでに一服しようという坂田が、この場所にいた土方を見つけた。

「何、君も自殺願望者?」

あほか と思った。
学校で空に一番近く、遠くまで眺められるこの場所は誰もが立ち寄ってみたい場所であるだろうに。
学校で生徒が屋上、というだけでその結論に至るのはどうなのだろう。
まぁ、そういう行動に及ぶ奴等が、ここを選ぶことが多いためなのだろうが。
土方はそのまま
「来たかったから」
と素直な答えを返し、担任はじゃあ時々くれば?と合鍵をくれた。
「無くすなよ。スペアそれしかないから」

それは特別なような気がして、とても気分がよかった。
それから、この鍵は土方の宝物となった。
キーホルダーをつけて、肌身離さずもっていた。
大好きな場所への特別な鍵。

「…今、授業中じゃないんですか」
確か自分のクラスは今、この男の授業なのではないか。
始業ベルが鳴ってからもう10分は経っているはずだ。
「土方君が居ないから、ここかなと思って。」
いまは自習。 そういって土方の目の前でしゃがんだ。

顔が近くなって、この男が整った顔なのだと知れる。
ふわふわとした銀色の天然パーマのせいでモテない、と本人は悩んでいるが
こんな顔(とはいっても、生気が感じられなく だらしない顔をしているのだが)をしているのだから
モテるだろう。と土方は思っていた。
大体、この生まれつき銀色という髪の色だ、良くも悪くも目立つだろう。
俺もこのくらい顔がよかったらなぁ、と考えていると

「そんな見つめられると照れるんですけど?」

そう言われ、はっと土方は気づいた。
なんだか恥ずかしくなって、うつむいてしまった。

男に見とれるだなんてありえない

「と、とにかく俺は今は戻る気はありません!」
そういって立ち上がり、土方はフェンスの方に近づいた。
そうすると、下にはグラウンドが一望でき、風がぶわ、と吹いた。

一瞬、変な気が湧いた。

がしゃ、とフェンスを登っていき、向こう側に降り立った。
下がとても近くに感じた。
「せんせい、俺ここから飛び降りて着地します」
振り返って、担任の顔をみて言ったのだが、まったく彼は動じなかった。
ゆっくりとフェンスに近づいて、
「おいで」
とだけ言った。

それがまたなぜか優しくて、もっと…という気が起こった。
「嫌です。ねぇ先生、ここから落ちたら 風 きっと気持ちいい風が受けられますよね」
シャツがひるがえり、黒髪が激しく揺れる。
かなりの強風。
「うん、そうだけど…土方ほんき?」
「はい。」
真剣な顔で言ったはずだ。
とはいえ、自分はポーカーフェイスだった。と土方は心の中で笑った。

がしゃん!

すごい音が目の前でして、びくりと土方は怯んだ。
「いいから、早くこっちにきなさい。土方」

ものすごい形相で坂田は土方を睨んだ。
それはとても珍しいもので、土方を後ずさせる事になった。

「わっ」

「土方!」

坂田の目の前から土方は消えた。
フェンスを登り、急いで下を覗き込んだ。


「土方!」「土方!」


呼んでも声などするはずがない。


「おい…ウソだろ…」




坂田は下を見て、そこにもう一段階くらい下に床をみた。
「………ぁ…」





そこに土方は落ちていた。
「いてぇ」などとのんきなことを言っている。

「土方ァ!戻れ!」

その声にびくり、とまたなって土方は上を見上げた。
怒った坂田の顔に、安堵というものなど映っても居なくて、
さらに怒りをのせたそれに土方は、自己嫌悪でいっぱいになった。

土方はそこからよじ登ってフェンスを登ってきた坂田と対面する。
坂田は先ほどの場所に胡坐をかいている。怒られる前に、と
「ご、ごめんなさい」
土方は謝った。

「こっちきて」

坂田は怒ったような口調でそばにくるようにと言った。
どのくらい近くに行けば良いのだと(もうすでに坂田の目の前に立っているはずだ)
土方は坂田と同じように、としゃがみこんだ。

ふわ、と甘いにおいがした。
そう思ったら坂田に抱きしめられていた。

「ホントに落ちたのかと思った…」
耳元でそう囁かれ、体がびく、とはねたのが土方は自分で分かった。
「ご、ごめ…」
「マジ怒るよ。」
「う…ごめ…」
土方だって怖かったのだ。
本当に落ちるつもりだなんて思っていなかった。

「ホントよかった…」
じわ、と土方は安堵して涙があふれた。
「せんせ…」
「うん」
「こわ、こわかっ…」
「うん。先生も」
ぎゅう、と土方は坂田の肩口に顔を埋めて、その甘いにおいに安心した。

着地する、と冗談で言ったつもりだった。
こいつも同じだ、他の教師と、俺もこいつにとってはただの生徒。

多分、それが嫌だった。

なぜそれが嫌だったのか、今はまだよくわからないけれど。









「たてない」
「は?!」
坂田はぼそりと土方の耳元でそう言った。
「お前のせいで腰が抜けた」
「おまっ…ホント情けねェエエエエエエエ!」

更新しばらくないです。

2006年08月18日

つくっておいてなんですが…ね!笑
更新、25日からになります。
あ、もうちょっとだね 笑

次は銀土とか綴ってみたい。