[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
仮金魂
「愛してる」
そんな言葉に何度騙されるフリをしてきたのだろう。
「君だけだよ」
そんな言葉に何度、現実だと錯覚しかけたか。
夢物語のようなこの夜のネオンが主張するこの場所を何度訪れるのをやめようと思ったか。
「トシちゃん。きいてる?」
艶のある声が耳元でささやかれた。
その声の主は、自分の首に腕を絡ませて、ソファごしに自分を抱きしめてきていたようだった。
胸元がざっくり開いたチャイナドレスを身にまとい、妖艶な笑みを浮かべるのは神楽だ。
ここのホストクラブのオーナー兼経営者である。
その神楽に腕をまわされている、ここのホストクラブに新しく入ったばかりの土方は考え事をしていたので全然聴いていなかった。
「ぁあ…すまねぇ…ちょっと考え事しててな」
「金ちゃんのこと?」
ずばり言い当てたと得意げに神楽は笑う。
キレイに笑うけれど、目は笑わない女だなと土方は思う。
「トシちゃん金ちゃんに何かされたカ?私トシちゃん大好きネ。いくら金ちゃんでも許さないアル」
ぎゅう、とまわされた腕に力が入った。
「いや、そんな何をされたっていう訳じゃねぇよ」
「ホントカ?」
ああ、と返事を返せば納得したように笑顔をよこす。
「ちょっと、いつまで俺の土方にくっついてるわけ?」
びく、と体がその声を聞いた途端に跳ねた。
『俺の』
それを聞いた土方の心臓が、どくどく、と鳴り出したのが聞こえてきた。
金時が俺のことを…と、思いかけたところで土方はその思考を止めた。
違う。そうじゃないんだ。こいつの言葉には意味なんてない。
土方はこの金髪のナンバーワンホストに淡い想いを抱いている。
初めて、町で声をかけられた時、いわゆる一目惚れってやつだ。
土方は俯き、金時と神楽の会話を聞いていた。
「いつどこで何時何秒トシちゃんが金ちゃんだけのものになったアル」
「うっせぇな。おめぇが連れてきたんじゃねぇだろ。俺なの、俺がこの子をスカウトした瞬間から俺のものなの」
ああ、そういう意味だよな と土方はぎゅうと目をつぶり、心臓の音が止むのを待った。
心臓は今、どくどくというよりも、つきりと痛んだ。
「……トシちゃんいじめるのやめて欲しいんだけど。だから金ちゃんには任せて置けないネ」
ちら、と神楽は土方を見たが、すぐに金時に視線を移した。
「いじめてねぇし。…まぁいいけどよ。土方の休憩終わりだから、俺ンとこきてよ。お仕事」
両手を広げて 来い と目で訴えられる。
「仕事ってなんですか」
土方は、目上の人間には決してタメでは話したりしない。
オーナーの神楽の方が金時よりも偉いし、敬語で話すべきなのだが神楽はそれを許さなかったので、いつもの自分らしい話し方をさせてもらっている。
土方はなんで金時は両手をひろげて待っているんだろうと思いながらも、おずおず、と立ち上がって金時の目の前に立った。
すると、すっぽりとその広げた腕で包まれてしまった。
「俺を癒してよ、ひじかた」
「ちょ…!なにすんだあんた!」
心臓がもたない。金時はいつもこのようなスキンシップをとろうとする。
土方はあまりこのような事に慣れていないために、おろおろと金時の腕の中で慌てふためいた。
「あ~…土方っていいにおいすんだよなぁ…しかもこの細い身体。女の子みたいに抱きやすいしなぁ」
「ちょ、何処触って…! いいにおいもしないし、俺は細くないです!来てくれた女に抱きしめさせてもらえばいいでしょう!」
「金ちゃんずるいよ。これがトシちゃんのお仕事なら私、今からお金だしてトシちゃん独り占めネ」
「だめ。お前は俺の太客ってことになってんだから。他のホスト相手はすんな。」
神楽は、まるで少女のように頬を膨らませ、ソファに座って腕と足を組んでいじけた。
「いいから離して下さい!」
まるで土方の意見を聞こうとしない金時に土方が痺れを切らせて訴えた。
「金ちゃん、他の女の子もいるのに。トシちゃんなんて必要ないアルよ」
ずく、と土方の心臓が痛んだ。
そうだ。金時はナンバーワンホストだ。女の子には不自由はしないし、ましてやこんな男なんかお呼びじゃないはず。
「俺、土方愛してるの。」
きゅうっと心臓をつかまれた気がした。
さっきから土方の心臓はおかしくなりそうだ。
「…は…?」
「愛してるんだ土方。お前だけだよ」
何度言われた言葉だろう。
そういって、俺をおとしいれるつもりなんだろう?
俺も愛してると返したら、まるで飽きたおもちゃを捨てるように、俺を手放すんだろう?
他の女たちに言っている所なんてごまんと見てきた。
金時にとっての俺は、なに?
男に…お金を落としていくわけでもないこんな男に、こんな言葉を降らせてなんの意味があるんだ?
わからない。
俺の方が愛してる。愛しているんだ金時。
止まない想いが溢れてきそうで土方は目を伏せた。
一生、だなんて、見たこともないくせに
「なぁ、土方って好きな奴いねぇの?」
思わず煙をぐ、とへんな所に入れてしまってむせる。
だいじょぶ?なんて言われたりして。
涙目になりながら 大丈夫だというと、興味もあまりないようで そう。としか言わなかった。
俺はお前が好きなんだ。
そんなこと、言えるわけも無くて黙って目の前の男を見つめた。
銀色の髪が今まさに沈もうとしている夕日の光に透けて美しい。
坂田銀時。万事屋というなんともあやしい職業をしている、男 である。
男が好きだなんていったらこいつは何と言うだろう。
しかも、それが自分だなんて知ったら。
偶然にも今日土方は巡回にまわっていて、歌舞伎町をうろうろしていた。
そうしたら、なんと向こうの方から声をかけてきて、パフェをおごってくれなどと甘えてきたのだ。
その事実が嬉しくて、目を細めた。
そんな顔しないでお願い!と腕を肩に回されたりなんかして。
ぁあ、ここまで俺は来れたんだと思った。
いつも会えば喧嘩ばかりで、気になっているのに好きなのに、口から出る言葉はきついものばかり。自分が恨めしい。
しかし、こいつはそんな俺にパフェを奢れというのだ。
確かにたかられているのと同じだが、俺と一緒にいても平気にまでコイツはなったんだと思うとなんだか胸が熱くなった。
金ヅルでもなんでもいい。
こいつと一緒にいられるのならば…
しぶしぶ了承したフリをして、こいつにパフェを奢った。
「好きな奴なんていねぇ」
「いまでもあの人の事すきなんじゃねぇの?」
あの人 というのは沖田の姉のミツバ だ。
俺が純粋に愛した女。
商売や、そこらへんの女ではなく。
大切にしたいと思った女。
これからも、忘れない女。
生涯に一人だけの女。
「お前には関係ねェ」
そういって、土方はハッとした。
突き放すような土方の言葉に坂田が眉をよせたのが見えた。
ああ、またやっちまった
反省するとともに、どうしてか坂田の視線が気になり土方は目を泳がせた。
頼んだコーヒーはもうすっかり冷めていた。
「や、結構関係あるんだけどね」
関係がある?
どういうことだろう。
俺があの人を好きでなぜ銀髪が関係するというのだ。
まさかコイツもあの人の事が?
土方が考えて黙って俯いていると、坂田はパフェのスプーンを置いてそのまま席を立った。
土方はその様子に驚き、顔をあげる。
『かえっちまうのか?』
ただの金ヅルはそんなことはいわない。
言いかけた言葉を土方は飲み込んだ。
「ごちそうさん」
坂田は土方の隣まできて止まった。
土方はなんだろうと、首を傾げる。
あれ?と思った時は目の前が銀色だった。
銀色が離れて、ふわりと揺れた。
「美味かったぜ」
にやりと笑った顔がやけに印象的で坂田が居なくなった後も土方はぼう、とそこに座ったまま空をみていた。
触れた唇はそこから熱を帯びているかのように主張していた。
キスされた
その真意は見えないが、それだけのことで胸がいっぱいになった。
その事実だけで一生生きていけそうだと思った。
あの笑顔を自分は守らなければならなかった女。
銀色の眩しいほどの力で心の支えになる男。
どちらも土方の心にずっといて、離れない。
「あめぇ…」
口の中に広がる甘さはあの男の やわらかい銀色
joke 03 指きりげんまん針千本。2(銀土)
土方は屋上で2度坂田に抱きしめられた。
その香りと、友達と言われて幸せで、浮かれていた。
坂田は優しいとおもう。
いつもだらだらと授業を進めるが、相談ともなると真剣に聞いてくれているらしい。
(近藤さんの恋愛話をちゃんと聞いてやったというのだから驚きだ)
多分慕われるのはそのせいだと思う。
面倒くさいといいながらも、世話をやく坂田は学校の人気者だ。
そう、奴は悩んでいる人間に優しい。
坂田から見れば、俺は自殺をしようとした人間なんだ。
自殺をしようとした生徒だなんて、見張っておくに越した事はない。
もうこれ以上自殺なんて考えないように、色々と気を使うのではないだろうか。
だから友達だなんていったのではないか。
土方は屋上で抱きしめられた日にふとその考えに至った。
それから坂田に話しかけられると、同情の目で見られていると思っただけで切なかった。
俺は友達だと思っているけれど、坂田はどうかわからない。
同情で、先生という立場から生徒の監視役として話しかけて、気をまわして…
最近は、そのことで頭がおかしくなりそうだった。
坂田とは、先生と生徒という関係ではなく、友達と言う関係になりたかった。
自分はつくづく坂田に好意があるのだなぁと感じるのだ。
いや、好意と言うよりは坂田は「先生」とは思えないからだろうか。
(あんな奴が先生って…)
今までの先生とはあきらかに違う坂田を土方は思った。
(どちからといえば、兄貴って感じだよな。)
(クラスのメンバーは妹、弟って感じで…)
「トシ~」
「近藤さん」
土方の幼馴染で豪気な性格の持ち主だ。ゴリラのストーカーだ。
「てめっ…ちょ、こっちこいやぁああ近藤さんバカにすんな!」
いやです。あなたが来ればいいでしょう。殺すぞ。いいから話進めろや。
お妙が勝手にナレーションをし始めた事は置いておいて、問題は近藤だ。
「どうしたんだよ。あんたがそんな顔するなんて」
「今日坂田先生にノート提出しに行かなくちゃならないんだが…道場のほうが…今日親父がいなくてな…」
「先生が?」
近藤の家は剣道道場で、そこに土方と沖田は小さなころから通っていて、剣道以外のことでもお世話になっている。
「だから坂田先生に代わりにノート出しておいてもらえねぇか?」
まだ、出来てなくて放課後までには出来ると思うから。と近藤は言った。
「あ…ああ構わねぇよ」
近藤たってのお願いだ。当然、引き受ける。
土方は坂田に会うのは嬉しいが、少し戸惑う。
土方はずっと坂田に言った方がいいと思っていた。
同情なんてしなくていいと。
放課後、チャイムと同時に土方にノートを渡したら近藤は走って帰っていった。
土方はそのまま職員室に向かった。
「しつれいします」
礼をして、まっすぐ坂田の机にむかった。
「おう、土方どうした?」
あいかわらず、坂田の机にはお菓子がいっぱい並んでいて、あまったるい匂いがした。
隣の先生とか迷惑してねぇのか?これ…
というくらい周辺が甘い。
「えっと…近藤さんが用あって来れなくて…これ、ノートです」
「あ~…あいつ んな急がなくていいっていったのに…まぁ、サンキュ」
坂田は土方からノートを受け取り、そのへんのプリントの山に とさっ、と置いた。
「じゃあ、失礼します」
土方は用がすんだとばかりに身をひるがえした。
「あ、まって」
坂田に呼び止められ、首をまわす。
「いくの?」
坂田はどこに、とは言わなかったが土方にはその場所が分かっていた。
「…心配しなくても行きません」
どうせまた屋上に行って自殺するとでも考えているのだろう
(この屋上の鍵だってきっと、引っ込みがつかなくて返してと言えないのだろう?)
土方は坂田をすこし睨みながら思った。
「や、別に心配はしてねぇけど…行くんだったらちょっと待ってて」
あとでいくから。
そういって坂田は腕をひらひらさせて、お疲れ様~と土方を見送った。
職員室から出た土方は疑問でいっぱいだった。
心配はしていない?どういうことだ。
それに、あとでいくからって…別に俺は屋上なんて今日は、行く気なかったし…
坂田は、あとでいくからと言っていた。
…俺も行かなくちゃなんねぇのか?
しかし、土方も坂田に言いたいことがあった。
ちょうどいいだろう。
土方はそのまま屋上に直行した。
誰もまわりにいないか確かめて、屋上の鍵を開けた。
するり、と屋上に入って坂田を待った。
ごろん、と横になりながら土方は空を仰いだ。
暖かく、風も気持ちよく吹いていた。
「ひじかた」
どうやら眠ってしまったらしい。
「ぅ…ん…」
体を起こして目をこすりながら、目の前の人を見上げた。
白い髪がふわふわと揺れて、死んだような目が土方を見ている。
「起こしてわりぃな。結構待たせちまった。寒くないか?」
まだ、季節は春の終わりだったがそれほど寒くはない。
それに待たせたといっても20分程度だろう。
「や…すみません…寝ちゃったみたいで…」
寝起きのぼうっとする頭でなんとか会話についていこうとする。
「先生、俺に何か用があるんじゃ?」
ああ、と坂田はタバコを取りだし、火をつけた。
「お前が何か言いたそうだったんでな、俺の気のせいかもしれないけど」
どうしてこの男はこんなにも、自分に気を使ってくれるのだろう。
どうしてすべてお見通しなのだろう
土方は坂田の促すような視線でそのまま言いたいことを言った。
「先生。俺もう自殺なんて馬鹿なことしようとしませんし…」
坂田は土方の言いたい事をすべて聞こうと、じっと土方を見つめている。
「…もう…友達…とか気を使わなくていいし…」
土方はどんどん恥ずかしくなって、俯いた。
「ホントです!絶対しません!…指きりしてもいいし!」
ずい!と坂田の目の前に小指をたてて、土方は言った。
しかし、顔はまだ恥ずかしくて下を向いて、目もぎゅう…と閉じていた。
小指を差し出した手はなぜか振るえ、そのままだ。
「だ、だから…同情とか…いらないんで」
そういった瞬間、小指にする、と何か巻きついた。
指切りと言うのだからそれは坂田の小指だったのだけれど。
なぜかその巻きつき方にぞくぞく、と背筋が寒くなった。
「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます」
土方は坂田が棒読みで歌っていてすこし可笑しくて笑った。
「指切った」
つ、と爪で小指の付け根の周りを滑らされたのを感じた。
本当に切られた様で、不思議な感覚がした。
「もうあぶねぇことしないって約束な。」
そう言って、そのまま屋上の扉へと坂田は消えていった。
呆然と土方はそこに座り込んだままだ。
坂田の触れた小指が暑いような気がした。
がちゃ
びくりと体がはねた。
土方は扉に再び現れた坂田に目をうばわれた。
に、と妖艶に笑って、土方を見ていた。
「そうそう。いい忘れてたけど…指きりって遊女が小指を切って愛の証に男に送ったりしたんだってよ」
「…は?」
「小指、差し出したのはお前だぜ?」
坂田が階段を降りていく音が頭にがんがんと鳴った。
愛の証?
男に小指を?
遊女が?
女が男へ
単語だけが頭の中をぐるぐるとまわる。
「ちょ…!」
まて、と坂田を追いかけたが、もうすっかり坂田の姿はなかった。
どういう意味だ
そういえば坂田は自分のことは同情だったのだろうか?
結局聞けずじまいだった。
それよりもっと他の悩み事が出来て土方は頭をかかえた。
愛ってなんだ。
そのあと教室にまだ残っていた沖田と神楽にどうしたのかと聞かれ、愛の証だのなんだの恋か病気かしつこくいい寄られたのだった。
さらに頭が痛くなった。
joke 03 指きりげんまん針千本。(銀土)
小指とは約束をするときに使うものだと、こちらに来てから誰かに教わった。
私の故郷にそのような まじないは、なかったように思う。
最近、土方がおかしい。
そう思ったのはつい何週か前の話。
ずいぶん前は、授業を真面目に受けていた土方がさぼり、どこかに行っていた。
(その時は具合が悪いのかと心配していたが、隣の席のS王子が それなら絶対意地でも授業を受けて皆に迷惑をかけているはずだと、紙飛行機を私にぶつけながら言った。)
そして授業に出てきたと思ったら真剣にノートだけをとっていた。
(それは当然いつものことなのだが、なぜか先生の話は聞いてなかったように思う)
最近に至っては、どこか暗く思いつめた様子だった。
「なぁ総悟。お前なんか知らないのか?」
「なんですかィあのマヨ人間の事か」
「あのニコ中のことヨ」
「それお前原作設定だろうが。これは3Z設定だろ~ちゃんとキャラ立てろィ」
「うるせェエエエエエエエエ!!!」
神楽のちゃぶ台返しがクラス全体に被害を加え、二人はお妙に説教をくらった。
「…話を戻すネ。土方。あいつ最近浮かない顔。心配ヨ」
「お前ホント土方さん好きな。」
目の前の茶髪の女顔(私よりかわいいんじゃないか…認めないけどな)の男、沖田総悟がため息をついて私を見た。
「土方優しいから好きヨ」
にこ、と笑って、マヨネーズはいけ好かないがな、と付け加えた。
沖田は そうですか とだけ言って黙った。
「何か聞いてないアルか?」
「聞いちゃいないが、きっとありゃあ恋煩いでさァ」
こいわずらい?
「土方さんは恋で悩んでるんでさァ」
そういう沖田をじっとみつめて、それはそんなに悩むものなのかと問うた。
土方さんはね、と意味深な言葉を沖田はこぼす。
「中学校の時にある女に惚れて、土方さんはずいぶん胸を痛めてた。こっちがどうにかなりそうなほどにな」
「それ今と同じネ」
ぱちくりと神楽は沖田の話を聞いてメモを取り始めた。
「でもあの人はそれを自分で自覚していない場合が多いんでさァ」
まるで記者にインタビューでもされているような風に沖田はふんぞりかえった。
ふんふんそれで?と神楽も乗り気。
「おめぇら…何好き勝手な事いってやがる…」
沖田の背後には鬼がいた。
神楽はその形相にビックリしてひく、と顔をひきつらせた。
「ひ、土方…!今までどこいってたカ?」
神楽の質問に土方はびたっと静止して、沖田を殴ろうとしていたのも忘れたように神楽の方を見た。
「べ、便所。」
「へぇ~あんた今の今までそんなに頑張ったんですかィ~いや~すげぇなぁ」
沖田はそういった瞬間に鉄拳を受けた。
「お前マジ死んで来い!」
土方どうどう…神楽は土方をなだめる。
「心中立てでもしてきたのかぃ?」
「シンジュウダテ?」
「愛の証でさァ」
「ほ~」
「勝手に俺抜きで話をすすめるなっ…!!!!!」
土方は顔を真っ赤にして叫んだ。
熱でもあるのか?と思ったがどうやら違うらしい。
「ほんとカ?土方…」
「…………」
ぐ、と土方は言葉を失ったように黙った。
顔は羞恥心でいっぱいのような顔をうつしていた。
自分たちはまだ知らない。
この黒髪の男がどのような思いでいたかなど。
知る由も無かった。
---------------------------------------------------------------------------------------------2へ
「指切り」とは、小指の先を切ること。
かつては、男女の仲で愛の証として特に遊女が実際に小指の先を切って男性に贈ることもあった。
「拳万」とは、拳骨(パンチ)で一万回打たれること。
「針千本」は針を千本飲ますこと。
ということで、子供が軽々しく口にするには重過ぎる内容だったのだ。
joke 02満面の笑みで「死にたい?」 (銀土)
あの日から俺はおかしい。
狂い始めた時間が過ぎてゆくと共に。
俺はあの日(自殺行為をする気はなかったのにしてしまった日だ)から屋上へはいけなくなっていた。
週に2,3度ほど行っていたのに対して、ここ数週間はまったくと言っていいほど行かなかった。
理由は、「担任、坂田銀八とふたりきりになりたくない」というものだった。
思い起こせば、いつも屋上に行くたびに坂田と会っていたと思う。
たいてい、坂田が もう帰るよ~ といって夜、(屋上の施錠のチェックは毎日するらしく)会っていた。
俺は屋上が好きで(どうやら小さい時から高い場所が好きらしい)ついつい夜までぼ~っとしてしまうのだ。
学校にそんな遅くまで残ってていいのか、と何度か坂田に聞いた事があったが、どうやら平気なようだった。
というより、めんどうくさいから隠れて帰ってとか、誰ももういないから見つからないとか、そんな返答ばかりが帰ってきていた。
話は長くなってしまったが、とにかく屋上は坂田と確実に二人きりになる。
土方は避けていた。
授業中も坂田を見ることをしないで、ノートをとる事に努めた。
見ることをしない…というといつも見ていたと勘違いされそうだが、自分は喋っている人を見る癖があって、先生が喋っているとつい、じっと見てしまうのだ。
いつだったか小学校の時、そんなに先生の事すき?と苦笑いで言われていたものだ。
なぜか聞いてくるのは大抵、女の教師だったが。
(男の教師は気持ち悪いとでも思って近づかないのであろう。聞きもしなかった)
たしか、クラスメイトの沖田にも冗談で言われた事があった。
(そのとき近藤さんもこちらを気にしているのか、ちらちらと俺の返答を待っていたな)
とにかく、坂田とは目を合わせたり、会話をしたりすることを土方は避けた。
どうして避けなきゃいけないんだろう
と、自分でも思ったが、あの日、あの屋上で土方を本気で怒ったあの坂田が怖い。
多分 、 怖いのだ。
実際怖かったし、もう一度あの顔をされるのではないかと思ってしまう。
近づきたくない。
いつのまにやら、放課後で土方は どうしよう と考えた。
土方の両親は共働きで、家には殆どと言っていいほど帰ってこない。
(このご時世、あの両親はよく稼いでいるのだ)
そのため、あまり早くに家には帰りたくない。
屋上にもいけない、となると…
土方は図書室に行く事にした。
今はテスト一週間前なので利用数も多い。
土方は何か軽く読めるものを適当に探して手に取り、一番奥の目立たない席に座った。
図書室は、日陰でひんやりとしている。
落ち着く。
そしてぱらぱらと読み始めると、どうやらその本は当たりだったようで、どんどん話にのめり込んでいった。
だから気づかなかった。近づいてくる人物に。
そいつが自分の目の前の席に座って、じっと土方を見ていたことに。
土方はラストの落ちも気に入ったらしく、満足した顔をして本を読み終わった。
そして、本を戻そうと立ち上がった時、目の前に会いたくないナンバー1。
坂田銀八がいた。
思わず驚いて、椅子をがたがたっと鳴らした。
はっ、とここが図書室なことに気づいた。
そっと土方は気にしないといったように、本を元通りの場所にもどして去ろうとした。
すると
「土方く~ん。進路で相談があるんでしょ~?」
と坂田は大声で言った。
今日はいつもより利用数が多い。その分視線も多く、いつものように大声で相手に返答するほど土方は図太くはなかった。
ここで行かなければおかしい。
まるで土方が呼び出したような言い方を彼はした。
逃げられない。
そう思った。
土方はくるり、と向き直り元の位置におさまった。そして、「…俺、進路の相談なんてしてませんけど」と視線をそらしていった。目はまだ見れない。
「だって土方が逃げるから」
「逃げてなっ…!」
と、また大勢の視線を感じた。
もう絶対こいつの台詞に大声なんか張り上げない!と誓った土方は姿勢を直した。
「逃げてません。俺先生に用なんてありませんし、それに…勝手に先生が目の前に座っていただけじゃないですか」
正論を言えた…と思う。
するとにっこり笑って「ふぅん、そうかもね」なんて坂田は言った。
「でも、屋上に来なくなったのはなんで?」
ぎくり、と内心動揺した。
本当自分がポーカーフェイスで助かったと思った。
「先生に迷惑をかけたので、もう屋上は行かない事にしたんです」
多分これも本当だ。でも核心には触れていない。
ふうん、とまた坂田は言った。
「迷惑だって俺言った?」
(言ってないけど、怒ってたじゃないか!)
土方はつい俯いて「俺が迷惑をかけたと思ったんです」と言った。
「俺を見ないのは、そのせいなの?」
坂田は少し低めの声でそういった。
ぐ、と土方は思わず拳をにぎった。
バレていた。
そんなに通常自分は坂田を見ていただろうか?
いや、そうじゃなくても自分は話している人の目を見る。
そういう奴と急に目が合わなくなったら、当たり前なのだろうか。
「ねぇ、土方?」
びく、と思わず土方は坂田を見た。
声が低く、確実に怒っている声だった。
しかし、顔は…笑っていた。
満面の笑みだ。
「死にたい?」
「え?」
言ってる意味が分からない。
ねぇほんとむかつくなぁお前とか言ってる。
土方は動揺した。嫌われた?と目の前が真っ暗になっていた。
何故嫌われるとそうなるのか良く分からなかったが、ぐらぐらと視界がゆれた気がした。
多分、『殺してやろうか?』という意味だ、と 思 う。
視界は揺れていたが、頭は冷静になっていた。
この教師は自分が嫌いなのだ、とそう悟った。
じわ、となにか目に温かいものが湧き上がってきた。
「何泣いてんの」
そう言われて、初めて自分が泣いてる事に気づいた。
何泣いてんだと、自分でも思った。
制服の袖で目に溜まるものを拭い、土方はがたり、と立ち上がった。
「ありがとうございました。参考になりました。」
と、周りに聞こえるように言って、そのまま図書室を出て行った。
ばかだばかだばかだ。
自分はきっと、坂田に好意を持っていたんだと思った。
だから、特別扱いされたと舞い上がったり、傷ついたりしている。
そして、死にたい?と言われたら絶望的な気持ちになった。
ぁあもうなんでこんなにも自分は馬鹿なのだと思った。
幼稚な子供だ。
思い知った。もういい。
土方は屋上に向かう階段を駆け上って、屋上の扉の前で鍵を取り出して、ばん!と開け放った。
久しぶりの屋上はなぜか涙が出た。
空をみたら切なくなった。
「土方!」
ばん、と勢い良く扉の音がして、そこには坂田がいた。
どうして、と思った。
追いかけてくる必要はないはずだ。
「なん…」
口をあけると余計に涙があふれた。
すると、坂田が近づいてきて土方をみた。
土方は不思議そうな顔で、首を傾け坂田を見つめた。
あ、久しぶりの顔。
そう思うと幸福感が溢れてきて、しあわせだ、と思った。
自分はばかだなぁと、再び土方は思った。
「ごめんな…」
なんのことだろうと、首を傾げた。
ふわり、と甘いにおいが香った。
坂田のにおいだと認識するのが遅くなったほど自分がどうなっているのか分からなかった。
自分は坂田に抱きしめられていた。
「ちょっとお前が屋上に来なくなったからっていじわるしちまった」
いじわる…?
そう思って見上げるように坂田をみた。
そして、苦笑いで坂田は
「俺って子供なの。友達がつれなくなるのなんて耐えられないワケ」
と言った。
ともだち。
そう思ったらなぜか涙が出た。
生徒じゃなくって、ともだち。
それだけで特別だ何て思った。きっと誰かにそう言ったら、小さな幸せだなと、言われそうだ。
自分はきっとそれを求めていたのだと思った。
友達に抱く期待。
それを坂田に俺は抱いていたのだ、と土方は納得した。
「ごめんな?」
坂田は土方の涙を親指の腹で拭って、にこ、と笑った。
さっきのようなウソっぽい笑顔ではなかった。
「俺も…ごめんなさい…先生この間怒ってたから 会うの、怖くて…」
と、土方は友達に白状する時ってこんな感じだと思いながら、ぼそぼそと喋った。
ぎゅう、と坂田の腕の力がその時、強まった気がした。
土方は頭に「?」を浮かべて坂田の白衣をぎゅう、と掴みかえした。
痛くて、思わず掴んだと言った方が正しいか。
すると坂田は土方に掴まれた瞬間 ぴく、と何か反応していた。
なぜかは土方には良く分からなかったが。
「うん…そっか。よかった。嫌われたわけじゃなくって」
坂田はそういって土方の頭に頬をすり、と寄せた。
それが土方はくすぐったくて、身をよじった。
俺も。よかった。嫌われてなくて。
それは言わずに、坂田の腕の中で土方は甘いにおいを楽しんでいた。